『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治), 作家別(ま行), 宮口幸治, 書評(か行)
『ケーキの切れない非行少年たち』宮口 幸治 新潮新書 2020年9月5日27刷
児童精神科医である筆者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」 が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」 ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる 「境界知能」 の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。(新潮新書)
この本には、犯罪を犯した少年が “なぜ犯罪者となったのか” 、その根本についてが述べられています。児童精神科医の著者が、(多くのケースは) 医療少年院での治療を通じて知り得た事実、非行少年たちの “知られざる” 実情が明かされています。目次を見ると -
「狂暴で手に負えない少年」 の真実/計算ができず、漢字も読めない/そもそも反省ができず、葛藤すらもてない/幼児ばかり狙う性非行少年/「やる気がない生徒」 の背景にあるもの/困っている子どもたちはサインを出している/サインの 「出し始め」 は小学2年生から/「クラスの下から5人」 に要注意/軽度知的障害は人口の14%?/褒める教育だけでは問題は解決しない/学習の基礎となる 「認知機能」 を向上させよ/1日5分で日本を変える方法 といった項目が並んでいます。
第一章 「反省以前」 の子どもたち (抜粋して紹介)
医療少年院は特に手がかかると言われている発達障害・知的障害をもった非行少年が収容される、いわば少年院版特別支援学校といった位置づけです。全国にこのような少年院は3ヶ所あります。非行のタイプは窃盗・恐喝、暴行・傷害、強制猥褻、放火、殺人まで、ほぼ全ての犯罪を行った少年たちがいます。
その少年は社会で暴行・傷害事件を起こし入院してきました。少年院の中でも粗暴行為を何度も起こし、教官の指示にも従わず、保護室に何度も入れられている少年でした。ちょっとしたことでキレて机や椅子を投げ飛ばし、強化ガラスにヒビが入るほどでした。
そんな情報が耳に入っていたので、内心びくびくしながら診察にのぞみました。どんな凶暴な少年が来るのかと思っていたら、実際に部屋に入ってきたのは、小柄で痩せていておとなしそうな表情の、無口な少年でした。
こちらの質問にも 「はい」 「いいえ」 くらいしか答えません。ときどき 「え? 」 と聞き返していました。あまり会話が進まないので、私はこれまで病院での診察の中でルーチンとして行っていた Rey複雑図形の模写 という課題をやらせてみました。
これは次頁の図1-1にある複雑図形を見ながら手元の紙に写すという課題です。神経心理学検査の一つで認知症患者などに使用したり、子どもの視覚認知の力や写す際の計画力などをみたりすることができます。
彼は意外にもすんなりと課題に一生懸命取り組んでくれたのですが、そこで生涯忘れ得ない衝撃的な体験をしました。彼は黙々と図1-2のようなものを描いたのです。(見本の図1-1と彼が描いた図1-2はP20にあります)
世の中のすべてが歪んで見えている? (少年が描いた図は、そうとしか思えないものでした)
このような絵を描いているのが、何人にも怪我を負わせるような凶悪犯罪を行ってきた少年であること、そしてReyの図の見本が図1-2 のように歪んで見えているということは、“世の中のこと全てが歪んで見えている可能性がある” ということなのです。
そして見る力がこれだけ弱いとおそらく聞く力もかなり弱くて、我々大人の言うことが殆ど聞き取れないか、聞き取れても歪んで聞こえている可能性があるのです。
私は、“ひょっとしたら、これが彼の非行の原因になっているのではないか” と直感しました。同時に、彼がこれまで社会でどれだけ生きにくい生活をしてきたのか、容易に想像できました。つまり、これを何とかしないと彼の再非行は防げない、と思ったのです。
凶悪犯罪を行った少年に、何故そんなことをやったのかと尋ねても、難し過ぎて理由を答えられないという子がかなりいたのだそうです。
このことは、(少年院にいる多くの) 少年に、そもそもにおいて - 自分のした非行としっかり向き合う、被害者のことを考え深く内省する、自分を正しく分析する - その 「能力がない」 ということを示しています。すなわち、事の原因は 「反省以前の問題」 にあるのではないかということです。
少年にはそうする以外にどうにもならず、致し方なくした結果 「非行少年」 と呼ばれるようになります。こういった少年たちの中で、(知能に何らかの問題があるのではないかという疑いで) 幼い時から病院を受診している子はほとんどいません。彼らの保護者・養育環境はお世辞にもいいとは言えず、そういった保護者が子どもの発達上の問題に気づいて病院に連れていくことはまずありません。
非行化した少年たちに医療的な見立てがされるのは、(決まって) 非行を犯し、警察に逮捕され、司法の手に委ねられた後だということです。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆宮口 幸治
立命館大学産業社会学部教授。京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務。2016年より現職。困っている子どもたちの支援を行う 「コグトレ研究会」 を主宰。医学博士、臨床心理士。
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