『流浪の月』(凪良ゆう)_デジタルタトゥーという消えない烙印

公開日: : 最終更新日:2026/06/07 『流浪の月』(凪良ゆう), 作家別(な行), 凪良ゆう, 書評(ら行)

『流浪の月』凪良 ゆう 東京創元社 2020年4月3日6版

せっかくの善意を、わたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。

あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい - 。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(東京創元社)

2020年 本屋大賞受賞作、凪良ゆうの 『流浪の月』 を読みました。

わたしは文に恋をしていない。キスもしない。抱き合うことも望まない。
けれど今まで身体をつないだ誰よりも、文と一緒にいたい。
ぬるい涙があとからあとから湧いて、文と初めて言葉を交わしたときに降っていた雨のように、わたしのすべてを濡らしてほぐしていった。

私と文の関係を表す適切な、世間が納得する名前はなにもない。(本文より)

当時9歳の少女だった家内更紗は、父が亡くなり母が姿を消したあと、伯母の家で暮らすことになります。公園にいたのは、伯母の家に帰りたくなかったからでした。原因は全て伯母の家にいた中二の一人息子、孝弘のせいです。

「うちにくる? 」 その問いは、恵みの雨のように彼女の上に降ってきたのでした。

頭のてっぺんから爪先まで、甘くて冷たいものに浸されていく。全身を覆っていた不快さが洗い流されていく。

「いく」 と言ったのは、更紗の方でした。

更紗を誘拐し、監禁したとして逮捕されたのは19歳の大学生、佐伯文でした。彼は小児性愛者ではあるものの、その性癖に対し、世間が思う一般的なイメージとは凡そ異次元で生きています。彼は更紗の手さえ触れません。触れるのを、どこか恐れています。

物語は、事実は誤認され、本人たちはそれをそうとは語らぬままに、あるいは語れぬままに進んでいきます。更紗も文も、実は今あることの真実は、二人が起こした事件の前にあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆凪良 ゆう
47歳。滋賀県生まれ、京都市在住。

作品 「花嫁はマリッジブルー」でデビュー。以降、各社でBL作品を精力的に刊行。主な作品に 「未完成」「真夜中クロニクル」「365+1」「美しい彼」他多数

関連記事

『レッドクローバー』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『レッドクローバー』まさき としか 幻冬舎文庫 2025年9月15日 初版発行 「まさか、こ

記事を読む

『きのうの神さま』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『きのうの神さま』西川 美和 ポプラ文庫 2012年8月5日初版 ポプラ社の解説を借りると、『ゆ

記事を読む

『理系。』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『理系。』川村 元気 文春文庫 2020年9月10日第1刷 いかに 「理系の知恵」

記事を読む

『ロスト・ケア』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『ロスト・ケア』葉真中 顕 光文社文庫 2015年4月20日第6刷 戦後犯罪史に残

記事を読む

『そこにいるのに/13の恐怖の物語』(似鳥鶏)_書評という名の読書感想文

『そこにいるのに/13の恐怖の物語』似鳥 鶏 河出文庫 2021年6月20日初版

記事を読む

『何もかも憂鬱な夜に』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『何もかも憂鬱な夜に』中村 文則 集英社文庫 2012年2月25日第一刷 施設で育った刑務官の

記事を読む

『毒島刑事最後の事件』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『毒島刑事最後の事件』中山 七里 幻冬舎文庫 2022年10月10日初版発行 大人

記事を読む

『惑いの森』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『惑いの森』中村 文則 文春文庫 2018年1月10日第一刷 毎夜、午前一時にバーに現われる男。投

記事を読む

『冷血(上・下)』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『冷血(上・下)』高村 薫 朝日新聞社 2012年11月30日発行 2002年、クリスマス前夜

記事を読む

『李歐』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『李歐』高村 薫 講談社文庫 1999年2月15日第一刷 その事件は、『大阪で暴力団抗争5人

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『人・で・なし』 (宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『人・で・なし』 宮部 みゆき 講談社文庫 2026年7月15日 第

『織田作之助コレクション』 (重里哲也 編)_書評という名の読書感想文

『織田作之助コレクション』 重里哲也 編 ちくま文庫 2026年7月

『怖い客』 (矢樹純)_書評という名の読書感想文

『怖い客』 矢樹 純 PHP文芸文庫 2026年7月17日 第1版第

『いい子のあくび』 (高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『いい子のあくび』 高瀬 隼子 集英社文庫 2026年5月30日 第

『家庭用安心坑夫/猿の戴冠式』 (小砂川チト)_書評という名の読書感想文

『家庭用安心坑夫/猿の戴冠式』 小砂川 チト 講談社文庫 2026年

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑