『流浪の月』(凪良ゆう)_デジタルタトゥーという消えない烙印

『流浪の月』凪良 ゆう 東京創元社 2020年4月3日6版

【2020年本屋大賞 大賞受賞作】流浪の月

せっかくの善意を、わたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。

あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい - 。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(東京創元社)

2020年 本屋大賞受賞作、凪良ゆうの 『流浪の月』 を読みました。

わたしは文に恋をしていない。キスもしない。抱き合うことも望まない。
けれど今まで身体をつないだ誰よりも、文と一緒にいたい。
ぬるい涙があとからあとから湧いて、文と初めて言葉を交わしたときに降っていた雨のように、わたしのすべてを濡らしてほぐしていった。

私と文の関係を表す適切な、世間が納得する名前はなにもない。(本文より)

当時9歳の少女だった家内更紗は、父が亡くなり母が姿を消したあと、伯母の家で暮らすことになります。公園にいたのは、伯母の家に帰りたくなかったからでした。原因は全て伯母の家にいた中二の一人息子、孝弘のせいです。

「うちにくる? 」 その問いは、恵みの雨のように彼女の上に降ってきたのでした。

頭のてっぺんから爪先まで、甘くて冷たいものに浸されていく。全身を覆っていた不快さが洗い流されていく。

「いく」 と言ったのは、更紗の方でした。

更紗を誘拐し、監禁したとして逮捕されたのは19歳の大学生、佐伯文でした。彼は小児性愛者ではあるものの、その性癖に対し、世間が思う一般的なイメージとは凡そ異次元で生きています。彼は更紗の手さえ触れません。触れるのを、どこか恐れています。

物語は、事実は誤認され、本人たちはそれをそうとは語らぬままに、あるいは語れぬままに進んでいきます。更紗も文も、実は今あることの真実は、二人が起こした事件の前にあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

【2020年本屋大賞 大賞受賞作】流浪の月

◆凪良 ゆう
47歳。滋賀県生まれ、京都市在住。

作品 「花嫁はマリッジブルー」でデビュー。以降、各社でBL作品を精力的に刊行。主な作品に 「未完成」「真夜中クロニクル」「365+1」「美しい彼」他多数

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