『湯を沸かすほどの熱い愛』(中野量太)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『湯を沸かすほどの熱い愛』(中野量太), 中野量太, 作家別(な行), 書評(や行)
『湯を沸かすほどの熱い愛』中野 量太 文春文庫 2016年10月10日第一刷
夫が出奔し家業の銭湯は休業状態。そんな幸野双葉に突然、余命二ヶ月の宣告が。その時から双葉は「絶対にやっておくべきこと」を実行していく。失踪中の夫を連れ戻して銭湯を再開し、娘たちを独り立ちさせた。だが幸野家にはまだ大きな秘密が残されていた。熱い家族愛と驚きのラスト。話題の映画の監督自身による原作小説。(文春文庫)
「私ね・・・・・少しの延命のために、自分の、生きる意味を見失うのは絶対に嫌、私には、どうしてもやらなきゃいけない事が、まだある」
双葉が、どうしてもやらなきゃいけない事、それが何なのか俺には分かっている。辛く厳しいあの秘密に立ち向かおうとしている。強い意志を持った双葉の横顔は、今の彼女に適切な言い方じゃないかもしれないけれど、とても美しく生き生きしていた。(本文より)
ネットで何度か(映画の)予告編を観ることがありました。
日本アカデミー賞で幾つもの賞を獲ったことは知っていました。宮沢りえの演技が素晴らしく、彼女の娘を演じた杉咲花も(その年頃の少女を演じて)実に上手かったらしい。
遅ればせながら書店へ行き、原作であるこの本を買いました。一日で読み、読むとどうしても映画が観たくなり、TSUTAYAへ行ってDVDを借りました。
小説を読んで泣いて、映画を観てまた泣きました。
これは、母としているべき人間が、理不尽にもその本分を全うできないでいる様子と、それを承知で、健気に生きようとする少女や青年の姿を描いた物語です。
双葉がそうなら、双葉が守ろうとする家族もそう。探偵の滝本とその娘、流浪の旅の途中で双葉と出合う向井拓海という青年もまたそうで、彼らは自分の意思とは無関係に、知らぬあいだに、元あった家族の形が別のものへと姿を変え、否応なく今に至っています。
おしなべてそれは不幸な出来事で、彼らは一様にその境遇を耐え忍んでいます。前を向けず、ただ佇んでいます。そんな中、余命宣告を受け死に逝く双葉だけが、なお生きようと克己する姿が描き出されています。
※参考:映画では探偵の滝本を駿河太郎、向井拓海を松坂桃李が演じています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆中野 量太
1973年京都府京都市生まれ。
京都産業大学卒業後、日本映画学校(現・日本映画大学)に入学。
作品 卒業制作の『バンザイ人生まっ赤っか』が日本映画学校今村昌平賞、TAMA NEW WAVEグランプリなどを受賞。以後、制作した映画で数多くの受賞歴あり。
関連記事
-
-
『三の隣は五号室』(長嶋有)_あるアパートの一室のあるある物語
『三の隣は五号室』長嶋 有 中公文庫 2019年12月25日初版 三の隣は五号室 (中公文庫
-
-
『セイレーンの懺悔』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『セイレーンの懺悔』中山 七里 小学館文庫 2020年8月10日初版 不祥事で番組
-
-
『線の波紋』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文
『線の波紋』長岡 弘樹 小学館文庫 2012年11月11日初版 線の波紋 (小学館文庫)
-
-
『悪徳の輪舞曲(ロンド)』(中山七里)_シリーズ最高傑作を見逃すな!
『悪徳の輪舞曲(ロンド)』中山 七里 講談社文庫 2019年11月14日第1刷 悪徳の輪舞曲
-
-
『通天閣』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
『通天閣』西 加奈子 ちくま文庫 2009年12月10日第一刷 通天閣 (ちくま文庫)
-
-
『あなたが消えた夜に』(中村文則)_書評という名の読書感想文
『あなたが消えた夜に』中村 文則 朝日文庫 2018年11月15日発行 あなたが消えた夜に (
-
-
『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』(香月日輪)_書評という名の読書感想文
『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』香月 日輪 講談社文庫 2008年10月15日第一刷 妖怪ア
-
-
『夜また夜の深い夜』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『夜また夜の深い夜』桐野 夏生 幻冬舎 2014年10月10日第一刷 夜また夜の深い夜
-
-
『憂鬱たち』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文
『憂鬱たち』金原 ひとみ 文芸春秋 2009年9月30日第一刷 憂鬱たち (文春文庫)
-
-
『ワルツを踊ろう』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『ワルツを踊ろう』中山 七里 幻冬舎文庫 2019年10月10日初版 ワルツを踊ろう (幻冬