『その先の道に消える』(中村文則)_書評という名の読書感想文
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『その先の道に消える』(中村文則), 中村文則, 作家別(な行), 書評(さ行)
『その先の道に消える』中村 文則 朝日新聞出版 2018年10月30日第一刷
帯に - 絡まりあう “謎” と “嘘” その周縁をさまよう男。 愛、信仰、運命 - 。 この世界を生きる意味。- とあり、すべての虚無に。 とあります。
僕は今、正常だろうか? 僕が求めているものは、何だろう?
アパートの一室で発見された、ある “緊縛師” の死体。重要な参考人として名前があがる桐田麻衣子は、刑事・富樫が惹かれていた女性だった。
疑惑を逸らすため、麻衣子の指紋を偽装する富樫。全てを見破ろうする同僚の葉山。だが事態は、思わぬ方向へと突き落とされていく。
犯人は誰か。事件の背後にあるものとは、一体何なのか。やがて、ある “存在告白” が綴られた驚愕の手記が見つかり - 。(中村文則 『その先の道に消える』 公式サイトより)
ある殺人事件が起こります。被害者は吉川一成という男。手帳に挟んであった名刺から、一人の女性の存在が浮かんできます。桐田麻衣子。捜査を担当する富樫は、以前、麻衣子と付き合っていたことがあります。
吉川を殺したのが麻衣子とわかり、富樫は別の人間を犯人にしようと思い立ちます。身代わりとなる中国人女性をホテルに呼び出して、弱みと引き換えに、言う通りにすれば見逃してやると、彼女の指紋と掌紋を取り、麻衣子のものとして捜査本部に提出します。
桐田麻衣子は、勤務先のクラブに客として来た吉川に会い、名刺を渡しただけの関係で、その後彼女は店を辞め、吉川とは会ってもいない。事件当日には家にいた - 富樫は本部に対し、そんな嘘の報告をします。
次に、吉川が死んだ部屋の契約者が伊藤亜美だとわかります。二人は同棲していたと思われるのですが、彼女は近所のエステの店員を辞めた後、行方知れずになっています。
伊藤亜美とは別にもう一つ、吉川に繋がる手掛かりがあります。吉川が所持していた名刺の中で、彼がかつて働いたことがあるという店の名前が明らかになります。それが、ハプニングバー。吉川は、そこで一度ショウをしたことがあります。
女性を縄で縛るパフォーマンス ・・・・・・・ 吉川が “緊縛師” だったとわかります。
店のオーナーは、四十代くらいの細身の男。彼は吉川には才能がなかったと言い、続けて、「でも、彼はおかしなことを言ってました。縄に促されてると。女性の欲求から、自分の欲求から離れて、麻の縄そのものの欲求を叶えてるみたいだと。・・・・・・・しかしそんな形而上学的なことより、Mの女性は即物的な愛を求めます。だから彼は向いてなかった」 と。
オーナーの男に対し、富樫が最後に桐田麻衣子の写真を見せ、「この女性を知ってますか」 と訊くと、男は麻衣子の写真をじっと見て、「知らないですね」 と答えます。そして続けて、
「・・・・・・・ただ」 「・・・・・・・この女性は危ない」 と呟きます。
※ここまでは第一部の、それもほんの発端でしかありません。その後、謎は謎を呼び、嘘はさらなる嘘に上塗りされて、物語は怒涛の第二部へと大きく舵を取ります。そこでは富樫に代わり、彼と同僚の葉山雄一が物語の主たる語り手となります。
富樫と葉山の二人の刑事。そして、死体となって発見された吉川一成。さらに、吉川の背後には、なかなかに正体の知れない、ある二人の人物がいます。
そして、桐田麻衣子と伊藤亜美。さらに、山本真理という女が登場してきます。
中で、少なくとも二人の人物は偽名を名乗っています。顔を変えた人物がいます。縄に囚われた人物も。”緊縛” の場面が再三再四描かれます。が、無論それが伝えたいわけではありません。
それぞれの愛、信仰、運命、 「生きる意味」 についてが書いてあります。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。
作品 「銃」「遮光」「悪意の手記」「迷宮」「土の中の子供」「王国」「掏摸」「何もかも憂鬱な夜に」「A」「最後の命」「悪と仮面のルール」「教団X」他多数
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