『理系。』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『理系。』川村 元気 文春文庫 2020年9月10日第1刷

理系。 (文春文庫)

いかに理系の知恵文系の物語をもって適切に使い、難局を乗り越えるか。危機の先にある、大きなチャンスをどうやってものにするのか。稀代の映画プロデューサーであり、ベストセラー作家である川村元気が、最先端を走る理系人15人と対話し、その目が映す未来に迫る。これから世界と人間は、どう変わるのか? 全国民必読本。(文春文庫)

如何にも堅苦しくて小難しいビジネス本のような説明に、どうか二の足を踏まないでください。

案外楽しく読めます。誰でもよく知るあのことが、実はこんな人の仕業だったのかと。LINEや人型ロボットや宇宙について。あの有名だったテレビCMやピタゴラスイッチについて。(あなたが知らない人の) 知らないことが、山ほど書いてあります。

東京藝術大学大学院映像研究科教授 佐藤雅彦先生の話

『バザールでござーる』 のネーミングはどう生まれた?

佐藤 昔、ニューヨークへロケに行ったとき、僕はお酒を飲まないので誘われても断ってばかりなんですけど、「佐藤さん、今日行くところはすごく素敵なナイトクラブで、有名なミュージシャンを輩出したところなんですよ」 と言われて、「なんて店ですか」 と聞いたら、「CBGBってところだ」 って言うんです。そのとき、CBGBというネーミングにしびれてしまいました。
川村 音感がいいですよね。
佐藤 そうです。なぜいいかというと、CBGBって 「AB A´B´」 という構造をしているんです。例えば 『ぐりとぐら』 とか 『キットカット』 も、CBGBの形をしている。それで、「次にネーミングかキャッチコピーを作るときは、AB A´B´でいこう」 と思っていて、そこから生まれたのが 『バザールでござーる』 です。

川村 ものすごく理系っぽい考え方ですね (笑)。
佐藤 いきなり 『バザールでござーる』 にはなかなかいけないけど、そういう方法論を踏み台にすればジャンプができる。しかもいったん飛んでしまうと、後から振り返って橋を架けることもできるし、そうするとどんどん飛びやすくなる。
川村 方法論があるから、量産体制も取れるんでしょうね。
佐藤 はい。常に自分が作ったものを要素還元して量産体制に入っていました。自己模倣ですね。そうすると、サントリーが来てもトヨタが来ても、いつも80点以上を出せる。いずれにしても、広告というのは基本として 「広く告げる」 ということなので、なるべく多くの人に伝わる方法論を探すことを、怠っちゃいけないと思いますね。(本文より抜粋)

ま、こんなわかりやすい話ばかりではないのですが。ちなみに佐藤先生の略歴はといいますと、先生は、

1954年静岡県生まれ。東京大学教育学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとして湖池屋 『ポリンキー』、NEC 『バザールでござーる』 をはじめ多数のヒットCMを手がける。94年に電通退社後、企画事務所TOPICSを設立。99年より慶應義塾大学環境情報学部教授、2006年より現職。主な仕事にプレイステーション・ソフト 『I・Q』、NHK Eテレの 『ピタゴラスイッチ』 『0655/2355』 『考えるカラス~科学の考え方~』 の企画・監修ほか。著書に 『考えの整頓』(暮らしの手帖社)、『経済ってそういうことだったのか会議』(共著/日本経済新聞社) ほか。芸術選奨 (11年)、紫綬褒章 (13年) をはじめ、受賞歴も多数。

という、素人目から見ると 「理系と文系、両刀使いの達人」 のような人物です。他に、「ニコニコ動画」 の生みの親である川上量生氏であるとか、ミドリムシで有名なユーグレナの出雲充氏、ロボットクリエイターの高橋智隆氏、LINEの舛田淳氏、JAXA宇宙飛行士の若田光一氏など、錚々たる顔ぶれが並んでいます。

この本を読んでみてください係数 85/100

理系。 (文春文庫)

◆川村 元気
1979年横浜生まれ。
上智大学文学部新聞学科卒業。小説家の他に、映画プロデューサー、絵本作家。

作品 映画「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」「君の名は。」「怒り」等を制作。著作「世界から猫が消えたなら」「四月になれば彼女は」「仕事。」「億男」「百花」絵本「ティニーふうせんいぬのものがたり」「ムーム」等

関連記事

『離れ折紙』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『離れ折紙』黒川 博行 文春文庫 2015年11月10日第一刷 離れ折紙 (文春文庫)

記事を読む

『真鶴』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『真鶴』川上 弘美 文春文庫 2009年10月10日第一刷 真鶴 (文春文庫) 12年前に夫の礼は

記事を読む

『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』(香月日輪)_書評という名の読書感想文

『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』香月 日輪 講談社文庫 2008年10月15日第一刷 妖怪ア

記事を読む

『万引き家族』(是枝裕和)_書評という名の読書感想文

『万引き家族』是枝 裕和 宝島社 2018年6月11日第一刷 万引き家族【映画小説化作品】

記事を読む

『二人道成寺』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『二人道成寺』近藤 史恵 角川文庫 2018年1月25日初版 二人道成寺 (角川文庫)

記事を読む

『私のなかの彼女』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『私のなかの彼女』角田 光代 新潮文庫 2016年5月1日発行 私のなかの彼女 (新潮文庫)

記事を読む

『螻蛄(けら)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『螻蛄(けら)』黒川 博行 新潮社 2009年7月25日発行 螻蛄 (角川文庫) &nb

記事を読む

『鯨の岬』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『鯨の岬』河﨑 秋子 集英社文庫 2022年6月25日第1刷 札幌の主婦奈津子は、

記事を読む

『ロコモーション』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『ロコモーション』朝倉 かすみ 光文社文庫 2012年1月20日第一刷 ロコモーション (光文

記事を読む

『金曜のバカ』(越谷オサム)_書評という名の読書感想文

『金曜のバカ』越谷 オサム 角川文庫 2012年11月25日初版 金曜のバカ (角川文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『遠巷説百物語』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『遠巷説百物語』京極 夏彦 角川文庫 2023年2月25日初版発行

『最後の記憶 〈新装版〉』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『最後の記憶 〈新装版〉』望月 諒子 徳間文庫 2023年2月15日

『しろがねの葉』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『しろがねの葉』千早 茜 新潮社 2023年1月25日3刷

『今夜は眠れない』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『今夜は眠れない』宮部 みゆき 角川文庫 2022年10月30日57

『プロジェクト・インソムニア』(結城真一郎)_書評という名の読書感想文

『プロジェクト・インソムニア』結城 真一郎 新潮文庫 2023年2月

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑