『夜がどれほど暗くても』(中山七里)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2023/09/11 『夜がどれほど暗くても』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(や行)

『夜がどれほど暗くても』中山 七里 ハルキ文庫 2020年10月8日第1刷

追う側から、追われる側へ。
絶望の淵で記者が掴んだ、真実。

志賀倫成は、大手出版社の雑誌 「週刊春潮」 の副編集長。スキャンダル記事に自負を持ち、充実した編集者生活を送っていた。しかし大学生の息子・健輔に、ストーカー殺人を犯して自殺したという疑いがかかる。彼の幸福は崩れ去り、取材対象からも罵倒される日々に、精神がすり潰されていく。だが被害者遺族である奈々美と出会い・・・・・・・。圧倒的筆致で真実と愛を描く、傑作ミステリ登場。(ハルキ文庫)

校了間際の 「週刊春潮」 編集部。
井波が書いた記事自体には何の問題もなかった。今を時めく女性アイドルグループの一員である能瀬はるみに持ち上がった不倫疑惑。(中略) 記事は妻に同情的で、既婚男性を若さと知名度で籠絡したアイドルの倫理的責任を追及している。スキャンダル記事としてツボを押さえた構成で裏も取れており、及第点をやれる。

それなのに校了直前で当の井波が疑義を差し挟んできたのだ。
この記事を出したら能瀬はるみは引退を余儀なくされます。
相手の既婚男性も世間に叩かれ、そうかと言って奥さんの憂さが晴れる訳でもありません。

記事にする社会的意義があるんでしょうか。

この井波の疑義に対して、副編集長・志賀倫成は、

取材対象の一人や二人、死のうが潰れようが関係あるか。それより雑誌が売れるかどうかだろ」 と応じ、続けて

ウチみたいな雑誌は読者の助平根性と嫉妬心と偽善に応えるために存在している。そして実際、売れている。ウチが春潮社の屋台骨を支えているんだ。もっと自分の仕事に、自分の記事に誇りを持て」 と言ったのでした。

志賀は、もちろん自分の言葉がかなり強引であり、半ば屁理屈であるのを十分承知しています。井波の疑義には (青臭いなりの) 理があることも。

しかし、長く春潮社に身を置き、会社の看板雑誌である 「週刊春潮」 の副編集長という責任ある立場である以上、どうあろうと井波の言い分を認めるわけにはいきません。

志賀のその、長い時間をかけて培ってきた仕事に対する思い入れやプライドが - ある朝、朝の6時台にやって来た警察からの報告で、息子の健輔がストーカー殺人の容疑者であり、その健輔もまた亡くなっている - と聞かされて、一気に崩れ去ることになります。

取材する側から逆転し、ここぞと、一方的に取材される側になります。

【お知らせ】
WOWOWで観られます。
「連続ドラマW 夜がどれほど暗くても」
11月22日スタート 毎週日曜夜10時~(全4話)【第1話無料放送】
上川隆也 加藤シゲアキ 岡田結実

この本を読んでみてください係数 80/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「セイレーンの懺悔」他多数

関連記事

『ミシンと金魚』(永井みみ)_書評という名の読書感想文

『ミシンと金魚』永井 みみ 集英社 2022年4月6日第4刷発行 花はきれいで、今日

記事を読む

『帝都地下迷宮』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『帝都地下迷宮』中山 七里 PHP文芸文庫 2022年8月17日第1版第1刷 現代

記事を読む

『線の波紋』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『線の波紋』長岡 弘樹 小学館文庫 2012年11月11日初版 線の波紋 (小学館文庫)

記事を読む

『夜蜘蛛』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『夜蜘蛛』田中 慎弥 文春文庫 2015年4月15日第一刷 夜蜘蛛 (文春文庫) 芥川賞を受賞し

記事を読む

『村田エフェンディ滞土録』(梨木香歩)_書評という名の読書感想文

『村田エフェンディ滞土録』梨木 香歩 新潮文庫 2023年2月1日発行 留学生・村

記事を読む

『サムのこと 猿に会う』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『サムのこと 猿に会う』西 加奈子 小学館文庫 2020年3月11日初版 サムのこと 猿に会

記事を読む

『痺れる』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『痺れる』沼田 まほかる 光文社文庫 2012年8月20日第一刷 痺れる (光文社文庫)

記事を読む

『切願 自選ミステリー短編集』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『切願 自選ミステリー短編集』長岡 弘樹 双葉文庫 2023年3月18日第1刷発行

記事を読む

『許されようとは思いません』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『許されようとは思いません』芦沢 央 新潮文庫 2019年6月1日発行 許されようとは思いま

記事を読む

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』中山 七里 講談社文庫 2013年11月15日第一刷 贖罪の奏鳴曲

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版

『猫を処方いたします。』 (石田祥)_書評という名の読書感想文

『猫を処方いたします。』 石田 祥 PHP文芸文庫 2023年8月2

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日

『うどん陣営の受難』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『うどん陣営の受難』津村 記久子 U - NEXT 2023年8月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑