『アンチェルの蝶』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『アンチェルの蝶』遠田 潤子 光文社文庫 2014年1月20日初版


アンチェルの蝶 (光文社文庫)

大阪の港町で居酒屋を経営する藤太の元へ、中学の同級生・秋雄が少女ほづみを連れてきた。奇妙な共同生活の中で次第に心を通わせる二人だったが、藤太には、ほづみの母親・いづみに関する二十五年前の陰惨な記憶があった。少女の来訪をきっかけに、過去と現在の哀しい「真実」が明らかにされていく - 。絶望と希望の間で懸命に生きる人間を描く、感動の群像劇。(光文社文庫)

あらん限りの不幸の連続で、きりがない。どこまでも人を追い詰める。果てがない。読んでいて、決していい気はしない。けれど、読まされてしまうのだ。

蓮の数式』 も、『カラヴィンカ』 のときもそう。例えば目を背けたくなるような暴力行為や倒錯する性衝動について、一見そんなこととは無関係に思える人間が、それが常識から遠ければ遠いほど、それらに対し、実は時に抗いがたい欲求に苛まれることがある。

遠田潤子の書く小説は、諸々ある邪悪なものに関する、いわば 「緩衝材」(ストッパー) のようなものかもしれない。いや、きっとそういうことなのだ。でなければ、こんな本を読みたいと思うはずがない。

そこいらにある不幸では飽き足らなくなったとき、のほほんと暮らす毎日が激しくつまらないと感じるとき、そして、剥き出しの欲望をどうにかして鎮めたいと思うようなとき。そんなときこそ、この人の小説を読むといい。

母に捨てられ、父に殴られ、勉強もできず、リコーダーも吹けない。そんな俺でも、いつかなにかができるのだろうか -

劣悪の環境から抜け出すため、罪なき少年は恐るべき凶行に及んだ。25年後の夜。大人になった彼に訪問者が。それは救いか? 悪夢の再来か?

河口近く、殺風景な街の掃き溜めの居酒屋「まつ」の主人、藤太。客との会話すら拒み、何の希望もなく生きてきた。ある夏の夜、幼馴染みの小学生の娘が突然現れた。二人のぎこちない同居生活は彼の心をほぐしてゆく。しかしそれは、凄惨な半生を送った藤太すら知らなかった、哀しくもおぞましい過去が甦る序章だった。今、藤太に何ができるのか? 希望は、取り戻せるか?

圧倒的なエモーションで描く慟哭のサスペンス。これは、忘れられない物語となる。
この切なさ。この高まり。遠田潤子に注目! (アマゾン内容紹介より)

 

この本を読んでみてください係数  85/100


アンチェルの蝶 (光文社文庫)

◆遠田 潤子
1966年大阪府生まれ。
関西大学文学部独逸文学科卒業。

作品 「月桃夜」「カラヴィンカ」「お葬式」「あの日のあなた」「雪の鉄樹」「蓮の数式」「オブリヴィオン」他

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