『偽りの春/神倉駅前交番 狩野雷太の推理』(降田天)_書評という名の読書感想文

『偽りの春/神倉駅前交番 狩野雷太の推理』降田 天 角川文庫 2021年9月25日初版

5人の容疑者VSチャラい警官の心理戦ミステリ このおまわりさんからは逃げられない 第71回 日本推理作家協会賞 短編部門受賞作

老老詐欺グループを仕切っていた光代は、メンバーに金を持ち逃げされたうえ、『黙っていてほしければ、一千万円を用意しろ』 と書かれた脅迫状を受け取る。要求額を用立てるために危険な橋を渡った帰り道、へらへらした警察官に声をかけられ - 。第71回日本推理作家協会賞 (短編部門) を受賞した表題作 「偽りの春」 をはじめ、”落とし狩野” と呼ばれた元刑事の狩野雷太が5人の容疑者と対峙する、心を揺さぶるミステリ短編集。(角川文庫)

[目次]
鎖された赤
偽りの春
名前のない薔薇
見知らぬ親友
サロメの遺言

好きか、嫌いか - 面白いかどうかの分かれ目は主人公・狩野雷太のキャラクター、一点にあるのだと思います。警察官らしくないといえば、らしくない一方の狩野ではありますが、視点を変えれば、彼ほど警察官に相応しい人間はそうはいません。

何気に交わす会話の中で、相手の (犯罪にかかる) 一挙手一投足を見逃しません。常に、普通ならざる “端緒” を探っています。じわじわと、真綿で首を締めるように相手を追い詰め、相手の言い分が “破綻する” まで容赦しません。執拗で粘着質なその性格は、彼の見た目と日頃の言動とは天と地ほどの差があります。

表題作が第71回日本推理作家協会賞 短編賞を受賞したのもむべなるかな。
考えてみれば、著者はデビュー時からすでに即戦力のプロだった。それもそのはず、降田天が鮎川颯と萩野瑛の二人からなる作家ユニットであることは広く知られているが、二人は早くから少女小説で活躍しており、降田天名義の長篇女王はかえらないで2014年の第13回 このミステリーがすごい! 大賞を受賞したのは、再デビューだったのだ。

同賞の選考委員として筆者がその現場に立ち会えたのは誠に幸運だったが、女性二人のユニットと聞いて、執筆も倍速かとつい思ったのはとんだ勘違い、文章にも仕掛けにも妥協を許さないアーティスト気質だったようで、本書においても、ネタ探しから、取材、話作りまで、苦労を重ねた成果が表れている。
そしてそれは、狩野雷太シリーズ初長篇になる次作朝と夕の犯罪』(2021年9月29日刊 でも見事に結実している。(以下略/香山二三郎の解説より)

※本にある5編は、狩野雷太がかつて現役の警察官だった頃の話です。彼は既にその職を辞しています。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆降田 天
執筆担当の鮎川颯(あゆかわ・そう)とプロット担当の萩野瑛(はぎの・えい)による作家ユニット。『女王はかえらない』 で第13回 「このミステリーがすごい」 大賞を受賞し、降田天名義でのデビューを果たす。

作品 「彼女はもどらない」「すみれ屋敷の罪人」「ネメシスⅣ」など

関連記事

『噂』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『噂』荻原 浩 新潮文庫 2018年7月10日31刷 「レインマンが出没して、女の子の足首を切っち

記事を読む

『カルマ真仙教事件(上)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文

『カルマ真仙教事件(上)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 警視庁公安部OBの鷹田

記事を読む

『ある行旅死亡人の物語』(共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣)_書評という名の読書感想文

『ある行旅死亡人の物語』共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣 毎日新聞出版 2024年1月15日

記事を読む

『相棒に気をつけろ』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『相棒に気をつけろ』逢坂 剛 集英社文庫 2015年9月25日第一刷 世間師【せけんし】- 世

記事を読む

『野良犬の値段』上・下 (百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『野良犬の値段』上・下 百田 尚樹 幻冬舎文庫 2022年5月15日初版 稀代の

記事を読む

『 i (アイ)』(西加奈子)_西加奈子の新たなる代表作

『 i (アイ)』西 加奈子 ポプラ文庫 2019年11月5日第1刷 『サラバ!

記事を読む

『ザ・ロイヤルファミリー』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ザ・ロイヤルファミリー』早見 和真 新潮文庫 2022年12月1日発行 読めば読

記事を読む

『マチネの終わりに』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文

『マチネの終わりに』平野 啓一郎 朝日新聞出版 2016年4月15日第一刷 物語は、中年にさしか

記事を読む

『誘拐』(本田靖春)_書評という名の読書感想文

『誘拐』本田 靖春 ちくま文庫 2005年10月10日第一刷 東京オリンピックを翌年にひかえた19

記事を読む

『億男』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『億男』川村 元気 文春文庫 2018年3月10日第一刷 宝くじで3億円を当てた図書館司書の一男。

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑