『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』村田 沙耶香 角川文庫 2023年2月25日初版発行

常識が崩壊する痛快さ、やりすごしていた痛みにきづく恐怖。理不尽さと闘うすべての人へ

全世界が驚嘆した コンビニ人間』 『地球星人を軽やかに超える、著者の新たなる代表作、誕生!
36歳の茅ヶ崎リナは魔法のコンパクトで “変身” し、無理難題を押し付けられるストレスフルな会社員生活を乗り切っている。だが、親友を守るためモラハラ男と魔法少女ごっこをするはめになり・・・・・・・ポップな出だしが一転、強烈な結末の表題作をはじめ、性別が禁止された学校で、恋に落ちた高校生の揺れ動く心が胸を打つ 「無性教室」 など4篇。物語でしか描けないリアルを容赦なく抉り、村田ワールドの神髄を堪能できる衝撃の短篇集! (角川文庫)

[目次]
丸の内魔法少女ミラクリーナ
秘密の花園
無性教室
変 容
 解説:藤野可織

付いたタイトルに惑わされてはいけません。ふざけているわけでも何でもなくて、恐ろしく根源的な、人として 「お前はどうなんだ」 と問われているような話が4つ書いてあります。人が 「常識」 だと思う諸々が、実に不確かなものの上に成り立っているということを、読んだあなたはきっと思い知ることでしょう。

著者の小説を読むたび、私は、小説とはつまり私たち自身の取扱説明書なのだということを思う。それは、処世術とはあまり関係がない。自然がつくりあげた私たちの身体や私たちがつくりあげた社会の仕組みについての共通の認識を確認し直し、微に入り細に入り検証し直すことによって、私たちにとってどのような生が可能なのか。著者の小説は、常にそれを追求していると私は思う。

たとえば表題作の 「丸の内魔法少女ミラクリーナ」 の主人公は、外見上は完璧に、社会に期待されるふつうの30代会社員女性の像をなぞることに成功している。しかし心の中では、彼女は小学校3年生のときにはじめた魔法少女ごっこをやめられないままだ。

彼女は彼女の平和を乱す日常の出来事に対し、心の中でだけミラクリーナに変身することによって対処している。36歳の大人が魔法少女になりきって、ぬいぐるみと魔法少女用語を駆使した会話を繰り広げるさまはすごく笑える描写だけれども、でも、これってなんてすてきなアイデアなんだろうと考える読者はきっと少なくない。

しかも、この小説はそんなすてきな生存戦略の提案だけに終わらない。世界の平和を守ろうと真剣になること、「正義」 の意味合いを決してまちがえないことについて、魔法少女には重大な責任があるということまでもが書かれている。

それは小説というある種の魔法そのものであるこの作品自体が、力のある小説が持つ責任について自覚的である証左のようにも思える。(解説より)

※「秘密の花園」 は、男性である私にとって、とても恐ろしい小説です。主人公の千佳は、小学校の頃から好きだった早川くんのことを今も忘れることができません。二人は大学で再会し、千佳はある計画を実行に移します。計画とは、早川くんを誘い込み、一週間と決め、自分の部屋に 「監禁する」 ことでした。

人が思う 「現実」 とは何なのでしょう。それが 「常識」 だと端から信じるものが、もしもそうではなかったとしたら・・・・・・・現実では起こり得ないとわかりつつ、それでものめり込むようにして読んだのは、何を感じてのことだったのでしょう。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆村田 沙耶香
1979年千葉県印西市生まれ。
玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。

作品 「授乳」「ギンイロノウタ」「ハコブネ」「殺人出産」「しろいろの街の、その骨の体温の」「消滅世界」「コンビニ人間」「地球星人」「変半身/KAWARIMI」「生命式」他多数

関連記事

『劇場』(又吉直樹)_書評という名の読書感想文

『劇場』又吉 直樹 新潮文庫 2019年9月1日発行 高校卒業後、大阪から上京し劇

記事を読む

『犯人は僕だけが知っている』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文

『犯人は僕だけが知っている』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2021年12月25日初版

記事を読む

『ブータン、これでいいのだ』(御手洗瑞子)_書評という名の読書感想文

『ブータン、これでいいのだ』御手洗 瑞子 新潮文庫 2016年6月1日発行 クリーニングに出し

記事を読む

『緑の我が家』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『緑の我が家』小野 不由美 角川文庫 2022年10月25日初版発行 物語の冒頭はこ

記事を読む

『祝言島』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『祝言島』真梨 幸子 小学館文庫 2021年5月12日初版第1刷 2006年に起き

記事を読む

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の夜』宮沢 賢治 角川文庫 2024年11月15日 3版発行 あなたの時間を少しだ

記事を読む

『盲目的な恋と友情』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『盲目的な恋と友情』辻村 深月 新潮文庫 2022年12月5日9刷 これがウワサの

記事を読む

『湖の女たち』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『湖の女たち』吉田 修一 新潮文庫 2023年8月1日発行 『悪人』 『怒り』 を

記事を読む

『あなたが殺したのは誰』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あなたが殺したのは誰』まさき としか 小学館文庫 2024年2月11日 初版第1刷発行 累

記事を読む

『バリ山行』(松永K三蔵)_書評という名の読書感想文

『バリ山行』松永K三蔵 講談社 2024年7月25日 第1刷発行 第171回芥川賞受賞作

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『我らが少女A (上下)』 (高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A (上下)』高村 薫 毎日文庫 2025年5月10日

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

『夜の道標』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『夜の道標』芦沢 央 中公文庫 2025年4月25日 初版発行

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』伊与原 新 文春文庫 2025

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑