『伝説のエンドーくん』(まはら三桃)_書評という名の読書感想文

『伝説のエンドーくん』まはら 三桃 小学館文庫 2018年6月11日初版

中学校の職員室を舞台に、14歳という繊細で多感な年齢の子どもたちと日々真剣に向きあう中学教師たちの、リアルな姿を描いた連作集。その中学校には代々語り継がれる伝説のヒーロー「エンドーくん」がいる。校内のあちらこちらに残された「エンドーくん」にまつわる落書きの言葉が、それを目にした悩みや葛藤を抱える教師や生徒の一歩踏み出すきっかけとなった。なぜ「エンドーくん」が伝説となったのか? その謎がラストで明かされる - 。坪田譲治文学賞作家の傑作が待望の文庫化。巻末に文庫版のために書き下ろした「エンドーくん」のその後の物語を収載。(小学館文庫)

この小説はとある市内にある指折りの伝統校、市立緑山中学校が舞台となっている。但し、(紛れもない児童文学作品でありながら) 主たる登場人物の多くが2年生を担当する担任教師 - つまりは、”大人” だというところがおもしろい。

全般を通じて登場するのが、今年新任体育教師として緑山中学校に着任してきた、清水勇気という男性教師25歳。彼は2年3組の担任で、2年生は全部で6クラス。他に、

1組は、学年主任であり数学担当の、赤坂剛。赤坂は52歳だと言うが、年よりもだいぶ若く見える。ふちなしの眼鏡をかけた細身の教師だ。2組は国語の矢島美佳。全体的にぽっちゃり型の45歳。4組担任が、少し陰気な感じの美術教師、北野徳明48歳。かなり度のきつそうな眼鏡をかけている。5組は、英語の石田和子。公務員にしては、服装が華やかで、身長も高く顔立ちも派手だ。年齢は非公開と言って教えてくれなかったが、赤坂によると41歳らしい。そして、6組が理科担当の児玉豊。児玉は実年齢より多少老けて見えるが、来年定年をむかえる59歳ということだ。(P10.11)

物語は歴史あるこの緑山中学校に古くから書き継がれた、ある「落書き」を軸に綴られてゆきます。古いものなら全共闘時代から、つい最近になって書かれたものまで、落書きは学校のいたるところに残されています。不思議なことに、それを誰も消そうとはしません。

エンドーくんは、体育祭の星
エンドーくんの愛はふめつ
エンドーくんはお金よりつよし
エンドーくんは変化をおそれない
エンドーくんは、魔王にかつ

その「エンドーくん」が誰のことかが、さっぱりわかりません。

伝説のヒーロー・エンドーくんは架空の人物かと思いきや、実はそうではなかったことがわかってきます。エンドーくんは実在し、現に生きて今もどこかにいることが、やがて明らかになってゆきます。

※ ただの「遠藤くん」が、何があって「伝説のエンドーくん」になったかは、第6章「エンドーくん誕生」で明らかになります。この小説は単に子ども向けの児童文学に非ず、大人であっても読むべきような、そんな話であるのが段々とわかってきます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆まはら 三桃(みと)
1966年福岡県北九州市生まれ。

作品 「カラフルな闇」「たまごを持つように」「おとうさんの手」「なみだの穴」「ひかり生まれるところ」「鉄のしぶきがはねる」他多数

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