『徴産制 (ちょうさんせい)』(田中兆子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『徴産制 (ちょうさんせい)』(田中兆子), 作家別(た行), 書評(た行), 田中兆子
『徴産制 (ちょうさんせい)』田中 兆子 新潮文庫 2021年12月1日発行
「女になって、子を産め」- 国家は僕にそう命じた - 。
世紀の愚策か、救国の活路か。男女の壁を打ち破る挑戦的作品! センス・オブ・ジェンダー賞大賞受賞作
事の経緯はこうです。
今から6年前の2087年、日本で、今までに症例のない悪性新型インフルエンザが発生した。
スミダインフルエンザと呼ばれたこの疫病は、女性にのみ発症し、罹患者の大半は10代から40代、しかも若年層ほど死亡率が高かった。過去のパンデミックを踏まえ、抜本的な改革が断行されたWHOは、日本を一時的な鎖国状態に置いた。
日本政府は国内におけるワクチン開発を全面支援し、その開発と特許取得に成功した。しかし、3年後にスミダインフルエンザ終息宣言が出された時点で、亡くなった日本女性は219万人。10代女性の9割、20代女性の8割が、日本から消えた。
一方、万能細胞を利用した新薬における特許使用料で巨万の富を得たロシア系日本人医学者が創設した、ワッカナイ大学再生医科学研究所において、画期的な性転換技術の開発が成功した。これにより、大掛かりな外科手術をすることなく、可逆的に性別を変えることができるようになったのである。男性研究者が女性へ性転換し、妊娠と出産に成功、子供が順調に育っていることが発表された。
そして91年の3月、自由党のソガ首相は、国民に向けて会見を行った。日本国籍を有する満18歳以上、31歳に満たない男子すべてに、最大24ヶ月間 「女」 になる義務を課すという 「徴産制」 の提案だった。(本文より/一部略)
兵役ならぬ産役 - 「産役」 における出産に、婚姻関係は必要なく、育児の義務もありません。出産したその時点で産役は終了し、産まれた子供は基本的に国が引き取ることになっています。(但し、産んだ男性 (母親) や産ませた男性 (父親) が育ててもよく、むしろそれが奨励されています)
産役に就けば国から給料が支給され、自ら志願すればさらに一時金が上乗せして支給されます。そして、もしもめでたく出産すれば -(第一章に登場するショウマが暮らす辺りでは)- 新築の家一軒が買えるほどの報奨金が手に入るのでした。
・農業だけではこの先希望が持てない 「第一章 ショウマの場合」、
・順風満帆のエリートが焦る 「第二章 ハルトの場合」、
・産役を逃れようとした男を助けた 「第三章 タケルの場合」、
・少数派となった女性の様子や妻を持つ産役男が登場する 「第四章 キミユキの場合」、
・「スミダリバーランド」 運営の顛末を描く 「第五章 イズミの場合」 と、
法制定されたばかりの21世紀末からその17年後までの、「立場も職業も思想も異なる5人の男性が 〈女〉 として味わう理不尽と矛盾、そして希望」 が綴られています。
※男が女に性転換する。しかるべき間は給料が支払われ、子を成せば莫大な報奨金が手に入る。無理に男に戻る必要はなく、気に入れば女のままでいい。自分を母とし、産ませた男を父として、家族となって暮らします - やがてそんな時代がやって来る。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆田中 兆子
1964年富山県生まれ。
作品「甘いお菓子は食べません」「劇団42歳♂」「私のことならほっといて」「あとを継ぐひと」など
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