『デルタの悲劇/追悼・浦賀和宏』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『デルタの悲劇/追悼・浦賀和宏』浦賀 和宏 角川文庫 2020年7月5日再版

ひと気のない公園の池で10歳の少年の溺死体が発見された。少年をイジメていたクラスメイトの悪童3人組は事件への関与を疑われることを恐れたが、真相は曖昧なまま事故として処理される。ところが10年後、少年の幼なじみを名乗る男が3人の前に現れ罪の告白を迫ってきた。次第に壊れゆく3人の日常。果たして少年を殺したのは誰なのか。人間の本性を暴き出し、二転三転しながら迎える衝撃の結末。予測不能の神業ミステリ! (角川文庫)

[目次]
プロローグ 八木法子からの手紙
デルタの悲劇 浦賀和宏
解説 桑原銀次郎
エピローグ 八木法子からの手紙

(浦賀和宏の本名は、八木剛。小説には八木剛、つまりは浦賀和宏本人が登場します。しかも滅法重要な役どころで。そして、死にます。八木法子とは、浦賀和宏の母のことです)

斎木明丹治義行緒川広司 の三人は横浜の鶴見で生まれ育った。家が近いことから、三人はいつもつるんで行動していた。彼らは幼稚園の頃からその悪童ぶりを発揮し、町内の子どもたちを仕切り、我が物顔で街を闊歩した。小学校に上がってすぐに万引きを覚え、級友が仲間に加わらないとみるや、容赦なくイジメの対象にした。

三人と同じクラスに山田信介という生徒がいた。彼は三人とは別の問題を抱えていた。何をするにせよ行動がトロく、皆を苛立たせたのだ。次第に教師も生徒も、彼に何もやらせないようになった。そんな彼が悪童三人組に目をつけられるのは必然だった。

普段から三人の悪さに手を焼いていた教師たちも、相手が山田信介となると、見逃したり、軽く注意したりするだけに止めた。あんなにトロくて皆に迷惑をかけているのだから、イジメられても仕方がない、それがクラス内での共通認識となっていた。三人組以外にも山田信介を殴り飛ばして憂さを晴らしている生徒は大勢いたのである。

だから、彼らが四年生の冬の日の早朝、山田信介の水死体が近所の三ツ池公園の池で発見された時も、三人組にイジメ殺されたのではないかと考える人間は多くはなかった。

死んだ生徒が皆に好かれていたら事態は違っただろうが、トロくさい山田信介の死は、ほとんど誰にも悼まれなかった。警察は彼が足を滑らせて池に落ちたと断定し、捜査らしい捜査を行わなかった。

山田信介の死は、他の多くの事故と同じように処理され、人々の記憶から消えていった。山田信介の母親も、警察にこれ以上の捜査を望まなかった。息子が迷惑をかけるたびに皆に謝っていた母親は、信介が死んでもなお、ペコペコと関係者に頭を下げていた。(本文P8 ~ P11/一部割愛)

事が動き出すのは、事件が起きた10年後のことです。斎木明は、その年の成人式の日、突然に 八木剛 と名乗る男の訪問を受けます。斎木には、まるで聞き覚えがありません。八木は唐突に、「山田信介君の件でお邪魔したんです」 と言ったのでした。

※章の頭に付いているアルファベットには、(あたり前ですが) 意味があります。事は20年後、30年後にも発生します。残念ながら、一度に全部理解するのは不可能だと思います。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆浦賀 和宏
1978年神奈川県生まれ。2020年2月25日逝去。(享年41歳)

作品 「記憶の果て」「彼女は存在しない」「眠りの牢獄」「こわれもの」「ifの悲劇」「ファントムの夜明け」「緋い猫」他多数

関連記事

『たゆたえども沈まず』(原田マハ)_書評という名の読書感想文

『たゆたえども沈まず』原田 マハ 幻冬舎文庫 2024年2月10日 16版発行 天才画家ゴッ

記事を読む

『地下の鳩』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『地下の鳩』西 加奈子 文春文庫 2014年6月10日第一刷 大阪最大の繁華街、ミナミのキャバ

記事を読む

『地を這う虫』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『地を這う虫』高村 薫 文春文庫 1999年5月10日第一刷 高村薫と言えば硬質で緻密な文章で知

記事を読む

『愛すること、理解すること、愛されること』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『愛すること、理解すること、愛されること』李 龍徳 河出書房新社 2018年8月30日初版 謎の死

記事を読む

『星の子』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

『星の子』今村 夏子 朝日新聞出版 2017年6月30日第一刷 林ちひろは中学3年生。病弱だった娘

記事を読む

『藍の夜明け』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『藍の夜明け』あさの あつこ 角川文庫 2021年1月25日初版 ※本書は、2012

記事を読む

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行 私が観ると、絶対に負ける

記事を読む

『北斗/ある殺人者の回心』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『北斗/ある殺人者の回心』石田 衣良 集英社 2012年10月30日第一刷 著者が一度は書き

記事を読む

『マタタビ潔子の猫魂』(朱野帰子)_派遣OL28歳の怒りが爆発するとき

『マタタビ潔子の猫魂』朱野 帰子 角川文庫 2019年12月25日初版 地味で無口

記事を読む

『輪 RINKAI 廻』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『輪 RINKAI 廻』明野 照葉 文春文庫 2003年11月10日第1刷 茨城の

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『神童』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『神童』谷崎 潤一郎 角川文庫 2024年3月25日 初版発行

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『春のこわいもの』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『春のこわいもの』川上 未映子 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の夜』宮沢 賢治 角川文庫 2024年11月15日 3版発

『どうしてわたしはあの子じゃないの』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『どうしてわたしはあの子じゃないの』寺地 はるな 双葉文庫 2023

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑