『太陽と毒ぐも』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『太陽と毒ぐも』角田 光代 文春文庫 2021年7月10日新装版第1刷

太陽と毒ぐも (文春文庫)

大好きなのに、どうしても許せないことがある。
ハッピーエンドから始まる恋人たちの平凡な日常。一見幸せそうに見える二人に、ふとした瞬間に訪れる微かな違和感や不信感。あたたかな太陽の光が、突然暗い雲にさえぎられるように - 。買い物依存症、風呂嫌い、万引き常習犯、迷信好き・・・・・・・。不完全な恋人たちの、キュートでちょっと毒のある11のラブストーリー。(文春文庫)

[芦沢央の解説より]
角田さんの本を開くと、いつもすぐに物語の中に引きずり込まれる。自分が何者かなんてラベルとは関係ない、もっと奥のところにいる自分の欠片たちが、口々に騒ぎ始める。この感情は知っている、この記憶はここにもある、これは私のための物語だ、と。

本書には、十一の短篇が収録されている。
描かれているのは、十一組の恋人たちだ。
それぞれに別の人生を歩んできた彼らは、出会い、同じ空間と時間を過ごすようになる中で、少しずつ相手のある部分を許せなくなっていく。
たとえば、「サバイバル」 には、風呂に入らない女が登場する。
それも、少しサボりがち、というレベルではない。バリ島に行って海で遊んで、背中に藻や砂をはりつけたまま眠り、翌日もシャワーさえ浴びることなくそのまま帰国して、さらにもう一晩平気で洗わずに過ごしてしまうレベルだ。
最初はおもしろがり、「ワイルドでたのもしい感すらある」 と友達にも笑って話していた男も、やがて、彼女が前に風呂に入ってから何日目か臭いでわかってしまうことに、楽しく飲んで、二人で馬鹿笑いしながらじゃれ合って、「やるには飲みすぎた」 と考えた後、「せっかく風呂初日なのに」 と思ってしまうような日々に、耐えられなくなっていく。
各話には、そうしたある意味 「極端な人」 が出てくる。

薄めれば多くの人たちにもあるようなことを、度を越すほどに凝縮した彼らの言動は面白く、魅力的だ。
だが、だからこそ、物語が進むにつれて、そのおかしさが物悲しさへと変わっていく。
どうして、この人は、このままで許してもらえないのだろう。
どうして、最初は許されていたものが、許されなくなってしまうんだろう。

※11ある話に描かれている恋人たちの言動に、何ひとつ思い当たる節がない - などという人はいないと思うのですが、さてどうでしょう? 

風呂嫌いの、超じゃまくさがり屋の女・キタハラスマコもかなりなものですが、物語には、スマコ以上に “癖のある” 人物が次々と登場します。

・出会った記念日、キスした記念日、性交記念日、交際決定記念日、ディズニーランド記念日 - と細かな記念日を延々と作り出し、そのすべてを、一緒に、特別なものとして祝いたいと願うクマコ (「昨日、今日、明日」)

・好きなアーティストのCDは散々迷った挙げ句に買わないのに、買っても使いもせず、買ったことさえ忘れてしまうような流し素麺機や腹筋マシン、防毒マスクやホットサンドイッチメーカーやミャンマーの竹籠には湯水のようにお金を使うリョウちゃん (「お買いもの」)

・公表していいことと悪いことの区別がつけられず、恋人の童貞喪失年齢を自宅に飲みに来た仕事仲間の前で話したり、友達の好きな人をみんなにバラしたり、店長とアルバイトの不倫について口をすべらせたりしてしまうナミちゃん (「57577」)- などなど。

この本に登場する人物たちほどではないにせよ、憎からず思う相手の、一風変わったこだわりや身に沁み付いた習性について - 最初はかわいいとさえ感じたものを - 疎ましく感じるようになったのは何があったからなのでしょう? 相手の言動の一々が許せないのは、何が原因でそうなったのでしょう? あなたには、なにも落ち度はないのでしょうか。

この本を読んでみてください係数  85/100

太陽と毒ぐも (文春文庫)

◆角田 光代
1967年神奈川県横浜市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。

作品 「空中庭園」「かなたの子」「対岸の彼女」「紙の月」「八日目の蝉」「笹の舟で海をわたる」「坂の途中の家」「ドラママチ」「愛がなんだ」「それもまたちいさな光」他多数

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