『D R Y』(原田ひ香)_書評という名の読書感想文

『D R Y』原田 ひ香 光文社文庫 2022年12月20日初版第1刷発行

お金がない。どこにもゆけない。貧困のどんづまりで、私たちは一線を越えた。

三千円の使いかたの次に、原田ひ香が女とお金と生き方を見つめた衝撃作! 女たちはずるずると堕ちていく。そして戦慄の秘密が暴かれる = 。

離婚し子供たちと引き離され、金銭的に困窮した藍は、祖母と母のいる実家に戻る。生活力もなく喧嘩の絶えない藍たちに手を差し伸べたのは、隣に住む美代子だった。祖父を介護して暮らしているという美代子に助けられ親しくなるうち、彼女のある秘密が知れる・・・・・・・。貧困、ケア、孤独。背負わされる業と役割に、女たちはどう抗えるというのか。迫真と驚愕の犯罪小説。(光文社文庫)

大ヒットとなり、おそらく今も売れ続けているであろう 『三千円の使いかた』 の作家とは、とても思えません。三千円の下の下 - 今日明日の暮らしに追われ、未来らしい未来が描けぬままに、善と悪の間を行き来する人の (女の) 話が書いてあります。

原田ひ香の走り抜けるように読めてしまう文体が、私たちに物語の背景にある ケアの闇の奥 のそのまた奥を、垣間見る力を与えてくれる。なので、読後の残響が、深く大きい。

ヒロイン・藍は、三十三歳。モラハラ気味の夫・章雄や、藍を 「実家が貧乏な子」 と蔑む義父母にストレスを感じ、さらには夫の浮気に悩まされて、パート先の事務用品のリース会社の上司・高柳と不倫関係になってしまう。

不貞を盾に取られ、藍は子供二人の親権も夫に取られ、狭いアパートに一人引っ越して、かつかつの生活を送る。子供たち二人に会っても、おそらくは夫や義父母に都合の良いことばかり吹き込まれたのか、そっけなくされる。

そんな彼女が、実母が祖母を刺して留置所に送られたと連絡を受け、実家に引き戻されていく。いがみあう五十八歳の母・孝子と八十歳の祖母・ヤスのののしり合いは、読んでいてとても暗い気分になる。

孝子の夫で藍の父は、藍が生まれる前にどこかにいなくなったという。孝子は奔放で、恋人を次々と代える。終盤、生活保護を受けるよう藍にうながされても、男と付き合えなくなるからと受給を渋るような女性である。ヤスは、貧乏暮らしが骨の髄まで染みついていて、ひたすらがめつい。

本作は、貧困な人が自ら置かれた悲惨な状況に対し、何らかの抵抗や転覆の契機をもたない点が、ひたすら 「リアル」 である。貧困者の問題の根底には、自分たちの貧困について客観的に理解することができないという 「認識の貧困」 があるからだ。

舞台設定も、絶妙である。JR横浜線の、町田と八王子の間の、おそらくは相模原市内のどこかにある、うら寂れた五軒の家が寄り添い合った 「袋小路の家」。それが、藍の実家だ。(解説より)

自力で大学に進学し、結婚して二人の子どもに恵まれて・・・・・・・とそこまでは、苦労はあったものの、まだ “世間並み” ではあったわけです。貧しく恵まれない環境にあって、それでも藍は頑張ったのでした。

藍は、実家で暮らす母と祖母の面倒を、本当に看る必要があったのでしょうか? 家は借家で、母の孝子は自分本位で奔放で、どこでどんな仕事をし、どれほど稼いでいるかはわかりません。五十八歳の今も、どこの誰ともわからぬ男にうつつを抜かしています。

祖母のヤスは口やかましく見栄っ張りで、外面だけがいい老人で、他人には金で苦労したことがないなどと言いふらしています。そのくせケチでがめつく、実のところは、月に受け取る年金はわずか4万円ばかりのことでした。

二人の生活は、基本体を成していません。藍が戻ってきたのを幸いに、家事は概ね彼女に任せ、自分たちは思うままに日を過ごし、平気なふりをしています。藍には感謝の言葉一つもなく、さも当然のようにあれこれ命じては、時に小金をせびります。

離れて暮らす子供たちと一日も早く一緒に暮らしたい。これからの人生を立て直すために、自分は今何を為すべきか - 藍には、それを考える時間の余裕がありません。

そんな時でした。隣で暮らす美代子に声をかけられたのは。親しくする中で、やがて藍は、祖父の介護に明け暮れているとばかり思っていた美代子の、別の顔を知ることになります。それは悍ましくも切ない、美代子ならではの、生きる上での “決断” でもありました。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆原田 ひ香
1970年神奈川県生まれ。東京都杉並区在住。
大妻女子大学文学部日本文学科卒業。

作品 「三千円の使いかた」「はじまらないティータイム」「三人屋」シリーズ 他多数

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