『ただしくないひと、桜井さん』(滝田愛美)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/08
『ただしくないひと、桜井さん』(滝田愛美), 作家別(た行), 書評(た行), 滝田愛美
『ただしくないひと、桜井さん』滝田 愛美 新潮文庫 2020年5月1日発行

滝田さんの小説は、怖い。怖くて、とても誠実だ。 - 彩瀬まる
悪いと思いながら少女は母を蹴る。性欲のまま早熟な体を安売りする。死病に冒された女は夫ではない男に身を任せ、夫は当てつけのように女を買う。貞淑な祖母は孫を見捨て、清らかなはずの女は 「一番愛している」 からと悦楽に溺れていく。口には出せないたくさんの秘密。それは他人の痛みに手を差し伸べる “桜井さん” の中にもあった。R-18文学賞読者賞を含む、日常への裏切りに満ちた連作集。(新潮文庫)
踏み外れていく、ただただ気持ちがいいその一歩と堕落。R-18文学賞読者賞受賞の 善悪を振り切る問題作! “ただしくないひと” たちが織りなす4つの連作短編集
[目次]
・僕の前進を、ともに喜ぶ人は
・俺ではない男
・いくつになっても私には、
・わたしはまだ、わたしを知らない。
[解説より]
作中人物の言葉通り、この本は 「ただしいひと」 と 「悪いひと」 がいるのではなく、私たちはみんな 「ただしくないひと」 で、その 「ただしくなさ」 の現れ方に違いがあるだけだ、という不穏な仮定のもと、物語が紡がれている。
すごく怖い本だと思う。なにしろ、不倫をしている妻が実はきちんと夫を思い、愛していたりする。援助交際に手を染めた男が、制服好きのロリコンではなく普通の通勤帰りのサラリーマンだったりする。登場人物たちの行為には凄惨な過去や貧困やトラウマ、そんな大がかりな理由が用意されているわけではなく、強いて言うなら 「弱さがあったから」 彼らはそれを行う。ひょいと、さほど考えずに、渇いた喉を水で潤すくらい自然に、無自覚に、罪へと踏み出す。そのなめらかな展開に、読む側が想像しがちな大層な段差は存在しない。
(だから、怖いのだ。怖いもの見たさで、読まずにいられない) 「(著者の) 滝田さんの言葉にぷつりと刺されたとき、私たちの立っている足場はぐにゃぐにゃと歪み始める。こちら側と向こう側の段差はなくなり、ただの足元の悪い、時々ぬかるみに踏み込んでしまった人が転ぶ、広々とした地平が現れる。」
※これは読んだ方がいい。自分のことを 「正しい」 と思う人も、そうではない人も。若い人も、若くはない人も。幾つであっても、為になる。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆滝田 愛美
1981年東京都生まれ。
東京外国語大学外国語学部 (朝鮮語)、東京大学文学部 (宗教学) 卒業。
作品 2014年、「ただしくないひと、桜井さん」 で女による女のための R-18文学賞読者賞を受賞してデビュー。他の著書に、「この血の流れ着くところ」 がある。
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