『推定脅威』(未須本有生)_書評という名の読書感想文

『推定脅威』未須本 有生 文春文庫 2016年6月10日第一刷


推定脅威

 

- ごく簡単に紹介すると、こんなストーリーになります。

自衛隊戦闘機「TF-1」がスクランブル飛行中に墜落するという異常事態を受け、防衛省は直ちに検証に乗り出します。依頼を受けたのは、浜松にある製造元の航空機メーカー、四星工業。

担当するのは、入社3年目で今年度からTF-1技術管理室に配属された沢本由佳と、彼女の上司にあたる空力制御班の主任、永田昌彦の二人。沢本由佳はショートカットに地味なグレーのビジネススーツ、申しわけ程度にメイクした、如何にも勝ち気な女性です。

シュミレーションの結果、原因はパイロットの単純な誤操作によるものだと判断されるのですが、永田は沢本がふと漏らした何気ない一言が気にかかり、既に会社を辞めてデザイナーをしている同期の倉崎に相談を持ちかけます。

スクランブル発進した自衛隊機は、なぜ不可解な事故を起こしたのか? 真実の原因を追求する内に、思いもかけない策略 - かつて「TF-1」の設計時、官(防衛省)と民(航空機メーカー)とが各々に抱え込んでいた「闇」を巡って繰り広げられる非道なる計画の全貌が、少しずつ解き明かされていくことになります。
・・・・・・・・・・
「推定脅威」という聞き慣れない言葉に断然興味が湧いたのと、清張賞の選考会では満場一致の受賞であったと知れば読まずにおくわけにはいきません。

そもそもがこれといった考えもなく思い付きに読みたいと思った本を読んでいるだけの私ですが、合間合間に、これぞサスペンスだという「オール讀物的」な小説が無性に読みたくなることがあります。

そんなときには、例えば米澤穂信の古典部シリーズであるとか、宮部みゆきの少年少女らを主人公にした謎解きものを読んだとしても、あまり芳しくはありません。そのとき私が欲しているのは、もっともっと硬質で、言うならば地べたを這うような生臭い話なのです。

加齢とともにフィクションが読めなくなるというのは実によくわかる話で、知らず知らずのうちに、作り話だと分かっていてもまるで本当にある話のような作品により惹かれてしまいます。50を過ぎたあたりからは特にそうで、それが自分でもよく分かります。
全く縁のない世界の話で、しかも主題があまりに専門に過ぎて、思わず読み飛ばしてしまいたくなることがあります。担当するその道の専門家やパイロットが感知する違和感についても、彼らが思う程の重大な不具合かどうかがいまいちピンと来ないことがあります。

著者の未須本有生は東京大学の航空学科を卒業後、実際に大手メーカーで航空機の設計に携わっていたという経歴の持ち主で、何より航空機のメカに詳しいのは分かります。その道の関係者なら、何が書いてあるのか一々立止まって読み返すこともないのでしょう。

書いてあることの正しさが理解できるのと同時に、どうやら、時に「ご都合主義」に思える「こじ付け」めいた箇所があるような、ないような・・・・。しかし、それがどこの何を指して言うのかが、私のような素人にはさっぱり分かりません。

「フラッター」という現象が平生では考えられないくらいのあるまじき現象だとすれば、何よりそれに焦点を絞り、なおかつもっとも分かり易い言い方で解説して欲しかったと思います。そうであったならもっと怖がれたのに、と思わずにいられません。

よって、結論。知識の凄さは分かりますが、面白いですかと訊かれると手放しでハイとは言い難い・・・・、といったところでしょうか。ついでに言うと、思うほどに登場人物らのキャラが整っていないようにも感じられます。

沢本由佳という女性は本当は美人でとても優秀な人物なのですが(著者は間違いなくそういう女性に描こうとしているのですが)、どうもその感じがうまく伝わって来ません。イメージすると、次にまるで普通の女子と変わらないような彼女が出てきたりします。大甘で、80点。読んで損したとは思いませんが、得をしたようにも思えません。

 

この本を読んでみてください係数  80/100


推定脅威

 

◆未須本 有生
1963年長崎県生まれ。
東京大学工学部航空学科卒業。

作品 2014年、本作で第21回松本清張賞を受賞。他に「リヴィジョンA」

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