『騙る』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『騙る』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(か行), 黒川博行
『騙る』黒川 博行 文藝春秋 2020年12月15日第1刷
大物彫刻家が遺した縮小模型、素人の蔵に眠っていた重文級の屏風、デッドストックのヴィンテージ・アロハ・・・・・・・。
こいつは金になる - 。
古美術業界の掘り出し物にたかる、欲深き人びと。
だましだまされ、最後に笑うのは誰?
著者の十八番、傑作美術ミステリー連作集! (文藝春秋BOOKSより)
目次
マケット
上代裂 (じょうだいぎれ)
ヒタチヤ ロイヤル
乾隆御墨 (けんりゅうぎょぼく)
栖芳写し (せいほううつし)
鶯文六花形盒子 (うぐいすもんろつかがたごうす)
どちらかといえば私は長編が好きなのですが、合間合間に刊行されるこの手の短編集を見逃すわけにはいきません。丁々発止でやり取りされる、いかにもな関西弁。スピーディーな話の展開、(百も承知であるにもかかわらず、あっと言わせる)予期せぬオチに、今回もしてやられました。
クスッと笑い、スカッとして、それで終わるわけではありません。古美術品やヴィンテージものについての知識はもとより、業界に蔓延る悪しき慣習と顧客を騙す巧妙な手口の数々は、為になります。
つねではありますが、読みたいのに読むのがもったいない。残りページが少なくなるのが忍びない。このままずっと読み続けていたい。そんな気持ちになりました。
中で私のおススメは、第四話 「乾隆御墨」 です。
※話はまるで違うのですが、ネットでこんな記事を見つけました。これは、この本にも言えることです。そして、黒川ファンなら誰もが大なり小なり感じていることだと思います。本人曰く、
わたしの小説はものを食う場面が多いらしい。インタビューを受けるときは、たいてい、「おいしそうですね、モデルになったお店はあるんですか」 と訊 (き) かれる。「いや、モデルなんかないんですわ。登場人物にもね」
そう、なにもかも想像なのだ。店の造りから、出される料理、板前、仲居さんの着物の柄まで。
それではなぜ、主人公たちは頻繁にものを食うのか - 。(好書好日/朝日新聞2017年04月15日掲載の記事から)
空いた時間に、飯を食う。うどんや蕎麦を啜る。後で決まって、喫茶店に入る。確かに多くの “食べたり、飲んだり” する場面が登場します。それが全部 「おいしそう」 だということ。そんなところにもぜひ注目して読んでください。
尚、勿論上の記事には続きがあります。答えはどうぞご自身で確かめてみてください。
この本を読んでみてください係数 90/100
◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。
作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「ドアの向こうに」「迅雷」「離れ折紙」「悪果」「疫病神」「国境」「螻蛄」「文福茶釜」「煙霞」「暗礁」「破門」「泥濘」「後妻業」「勁草」他多数
関連記事
-
-
『やめるときも、すこやかなるときも』(窪美澄)_書評という名の読書感想文
『やめるときも、すこやかなるときも』窪 美澄 集英社文庫 2019年11月25日第1刷 やめ
-
-
『きのうの影踏み』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
『きのうの影踏み』辻村 深月 角川文庫 2018年8月25日初版 きのうの影踏み (角川文庫)
-
-
『世界から猫が消えたなら』(川村元気)_書評という名の読書感想文
『世界から猫が消えたなら』川村 元気 小学館文庫 2014年9月23日初版 世界から猫が消えた
-
-
『泥濘』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『泥濘』黒川 博行 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 泥濘 疫病神シリーズ 「待たんかい
-
-
『ぼくの死体をよろしくたのむ』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『ぼくの死体をよろしくたのむ』川上 弘美 新潮文庫 2022年9月1日発行 うしろ姿
-
-
『夫のちんぽが入らない』(こだま)_書評という名の読書感想文
『夫のちんぽが入らない』こだま 講談社文庫 2018年9月14日第一刷 夫のちんぽが入らない
-
-
『二人道成寺』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文
『二人道成寺』近藤 史恵 角川文庫 2018年1月25日初版 二人道成寺 (角川文庫)
-
-
『ここは退屈迎えに来て』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文
『ここは退屈迎えに来て』山内 マリコ 幻冬舎文庫 2014年4月10日初版 ここは退屈迎えに来
-
-
『くらやみガールズトーク』(朱野帰子)_書評という名の読書感想文
『くらやみガールズトーク』朱野 帰子 角川文庫 2022年2月25日初版 「
-
-
『ビニール傘』(岸政彦)_書評という名の読書感想文
『ビニール傘』岸 政彦 新潮社 2017年1月30日発行 ビニール傘 共鳴する街の声 - 。