『いのちの姿/完全版』(宮本輝)_書評という名の読書感想文

『いのちの姿/完全版』宮本 輝 集英社文庫 2017年10月25日第一刷


いのちの姿 完全版 (集英社文庫)

自分には血のつながった兄がいる。後年その異父兄を訪ね邂逅した瞬間を鮮やかに描く「兄」。十歳の時に住んでいた奇妙なアパートの住人たちの日常が浮かぶ「トンネル長屋」など、まるで物語のような世界が立ち上る - 。自身の病気のこと、訪れた外国でのエピソード。様々な場面で人と出会い、たくさんのいのちの姿を見つめ続けた作家の、原風景となる自伝的随筆集。新たに五篇を収録した完全版。(集英社文庫)

映画監督・行定勲氏による解説の冒頭 - はじめて宮本輝という作家の存在を知ったのは私が小学六年生の時だったと思う。祖父に連れられ熊本市内の映画館で『泥の河』を観たときだった。(中略)あきらかに私がそれまでに観てきた映画が作り物に思えるくらい、すべてが本物に思えた。・・・・・・・ 私は映画の中の闇の奥にあるものの実態が何なのか知りたいと思い、映画を観た帰りに祖父にねだって小説『泥の河』の単行本を買ってもらった。

それ以来、宮本輝の小説をとりつかれたように読んだ。何度も血を滾らせるような想いにさせられた。読みはじめるといつも、自分の心についた染みが浮きぼりになっていく。いくら洗っても取れないような染みで、油が飛んで出来たものなのか、かさぶたを無理矢理に剥がしてしまって出来た血の跡なのか、もしかすると返り血かもしれない。

気にしていると、「そんなものはただ汚れて出来た染みだよ」と言われているような気分になっていく。どんな染みのついた人生にも見上げると美しい星空が広がっている、そんな奇跡のような光景があることを、それを知らずに生きている私たちに気づかせてくれるのが宮本文学の素晴らしさだ。私は何度も救われた。(P194.195)

この本には、行定監督をしてこう言わしめる、作家・宮本輝の【原風景】が余すところなく記されています。それはいかばかりか不幸で、辛く貧しい時代の記憶でもあります。

叔母が住む奇妙なアパートに一年間預けられた時の話。

少年は十歳の時、 “絵に描いたような” 違法建築の「トンネル長屋」で、孤独死した老人を発見したり、包丁を持って現れた男が女を刺すところを目撃したりします。長屋には飲み屋の二階で客を取る女や、占い師をしている自称「詩人」の女、ヒロポンを売る中年男などがいます。

ある時少年は、顔見知りでもない元教師の男から部屋の南京錠を外からかけて欲しいと頼まれます。その数日後、元教師の部屋から腐乱臭がしてくるという事態が発生します。男は睡眠薬を大量に飲んで自殺していたのでした。等々。

大阪は尼崎、東難波にあったというトンネル長屋で、名もなき人々の 「生き死に」 を間近に見た少年は、その様子に、その顛末に何を感じたのだろう。少年のその後の人生に、それは何を齎したのだろうか。そんな話が書いてあります。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


いのちの姿 完全版 (集英社文庫)

◆宮本 輝
1947年兵庫県神戸市生まれ。
追手門学院大学文学部卒業。

作品 「泥の河」「螢川」「優駿」「約束の冬」「骸骨ビルの庭」「三千枚の金貨」他多数

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