『ふじこさん』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文

『ふじこさん』大島 真寿美 講談社文庫 2019年2月15日第1刷

ふじこさん (講談社文庫)

離婚寸前の両親の間で自分がモノのように取り合いされることにうんざりしている小学生のリサ。別居中の父が住むマンションの最上階から下をのぞき、子供の自殺について考えをめぐらすことがもっぱらの趣味。ある日きまぐれに父の部屋を訪れると見覚えのない若い女の人が出迎えてくれて・・・・・・・。ほか二編。(講談社文庫)

ふじこさん
元来利発なリサは、小学生であるにもかかわらず既に両親や祖父母のことを完全に見限っています。離婚間際にあって、父か母かのどちらが自分の親権を取るのかにも、さしたる関心がありません。何よりリサは、その頃自分の人生に深く絶望していたのでした。

リサにとって 「ふじこさん」 との出合いは、まさに衝撃的な出来事でした。この上なく奔放なふじこさんに対し、とりわけ父親の、男としてのあまりの不甲斐なさには呆れてものも言えません。父親の存在は極めて影が薄く、読むほどに覇気がありません。

試しに 『ふじこさん』 の父親について引用してみよう。中学受験を控えた 「リサ」 は、母方の祖父母の家で暮らしている。別居中の父親は 「優柔不断とののしられ、ぱっとしない男だと蔑まれ、どこまでも平凡な優男と決めつけられ」 ていたが、「最後に意地を見せたというか、根性を出したというか、わたしの親権だけは頑として渡すつもりはないらしかった」。しかしながら、「父は別に、わたしの親権がそれほど欲しかったわけではなく、たんに、母や祖父母の思い通りにさせたくなかっただけなのだろう」、ここまで娘に見破られてしまっている。この 「だけ」 は強烈だ。

マンションに出入りする 「ふじこさん」、要するに自分の交際相手について、娘に説明する科白もちょっとすごい。

※ふじこさんは父親が勤める会社で働く嘱託のデザイナーで、「仕事上やむなくマンションにも来たりはする」 が、それだけの関係で、父親は娘に対し 「多分、リサは誤解していると思うんだ」 と、あくまでしらを切り通します。

まさに優柔不断の優男の言い草。「リサ」 から見れば父親と 「ふじこさん」 の関係は一目瞭然で、また 「ふじこさん」 から見れば彼が娘や妻の実家の手前、どう立場を取り繕いたいのかも一目瞭然。「リサ」 と 「ふじこさん」 を結びつけたはずの男は置いてきぼりにされたまま、娘は父親の恋人とどんどん仲良くなり、恋人は志を立てイタリア行きを決めてしまう。彼女の決断の意味もタイミングも、娘はよく理解しているのに、いざ別れを告げられて、彼の口から出てくる科白というのも、また見事。(解説より)

(その 「見事な科白」 は本編で) とにもかくにも、交際相手と娘を取り持つはずの父親を置き去りに、リサとふじこさんは着実に親密な関係を築いていきます。

娘の親権をめぐり長引く騒動のさなかにありながら、ふじこさんという女性と出合ったことで、触発され、自分の思う世界の狭さを知った当のリサは、両親や母方の祖父母の思惑とは裏腹に、自らの生きる希望を見出していきます。

ある志を胸に、突然ふじこさんがイタリア行きを決めたのは、単にそれを成したいという理由ばかりではありません。それとは別に、なお切実な事情があったに違いありません。知らぬは父親ばかりなり。子どもだてらに、リサはそれを十分察知しています。

[他の収録作品]
・夕暮れカメラ
・春の手品師 (デビュー作/文學界新人賞受賞作

この本を読んでみてください係数  85/100

ふじこさん (講談社文庫)

◆大島 真寿美
1962年愛知県名古屋市生まれ。
南山短期大学人間関係科卒業。

作品 「宙の家」「ピエタ」「チョコリエッタ」「虹色天気雨」「ビターシュガー」「ツタよ、ツタ」「あなたの本当の人生は」「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」他多数

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