『ひなた弁当』(山本甲士)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/09
『ひなた弁当』(山本甲士), 作家別(や行), 山本甲士, 書評(は行)
『ひなた弁当』山本 甲士 小学館文庫 2019年3月20日第9刷
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/01/71Fus9a6yL._AC_UL320_-1.jpg)
人員削減を行うことになった勤務先で、五十歳目前の芦溝良郎は、上司に騙され出向を受け入れる。紹介先の人材派遣会社では名前を登録されただけで、きつい仕事ばかりを紹介され長続きしない。家族からはこれまで通りにしてくれと言われ、スーツ姿で朝から出ていく。やがて心の病を自ら疑うようになった頃、以前の派遣社員の新たな姿に励まされ、公園で見かけたのがドングリだった。そこでの思いつきが、良郎の運命を大きく変えていく・・・・・・・。追いつめられた先に、本人も気づかなかった潜在能力を発揮し始め、逞しく変貌していく主人公を描いた感動の長編小説! (小学館文庫)
“happy reading” にはもってこいの一冊。
但し、あなたに “合う” かどうかはわかりません。 難癖を付けようと思えばいくらでも付けられます。
土手や空き地に勝手に生えてる野草と自分が釣った魚でオリジナルな弁当を作り、(自分が食べるだけならまだしも) それを商売にしようなぞとは、
五十にもなって - そんな奴あ、いないだろう - とか、
んなこと出来るわけないだろうに、とか。
それくらいには突飛な話であるわけです。「リストラ」 はあまりに切実な問題ですが、当事者である主人公の良郎がとった行動は、切実過ぎる現実を前にして、突き抜けて現実離れしたものだったといえます。
しかしです。敢えて、ここでそのことは問うべきではない、と思うのです。少なくとも私はそんな思いで読みました。
炒ればドングリは美味いし、まるで天敵みたいに嫌われているブラックバスやブルーギルの白身は、それと言わなければ絶対に気付きません。癖がなく淡泊な味は、いくら食べても飽きることがありません。
その発見こそを、善しとしようではありませんか。
(ネットで見かけた感想を二つほど)
・私自身、自分は仕事が出来るとは思ったことは有りませんし、いつクビになるか暗い顔でヒヤヒヤしながら職場にいる人間です・・・・。が、何となく (本当に何となくですが・・・・) 本人が思っている以上に世の中は何とかなるのではないか? と、思わせてしまう、ある意味、私にとっては夢を見せて頂いたお話でした・・・・。(ヒムアキョさん 2019/02/01)
・リストラされた、何の取り柄も特技もないくたびれたサラリーマンが、どん底から一発逆転するスカッと話。確かにドングリ以降は胸がすく展開だけど、前半の方がリアリティはあったな。ロクに料理もした事がないのに、万人の舌を納得させる弁当をサラッと作ってしまうとか、リストラ以後関わる人がおしなべて良い人だとか・・・・・・・なんて細かい点をあげつらうのは無粋かな。ここは明るい気持ちになれる、ビタミン剤のような小説という事で良いのかも。(kujimamiさん 2018/11/16)
まあまあ、こんな感じで読んでもらえればと。
この本を読んでみてください係数 80/100
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◆山本 甲士
1963年滋賀県大津市生まれ。
北九州大学法学部卒業。
作品 「ノーペイン、ノーゲイン」「どろ」「かび」「とげ」「ひろいもの」「あたり-魚信」「運命のひと」他多数
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