『不連続殺人事件』(坂口安吾)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『不連続殺人事件』(坂口安吾), 作家別(さ行), 坂口安吾, 書評(は行)

『不連続殺人事件』坂口 安吾 角川文庫 1974年6月10日初版

戦後間もないある夏、詩人・歌川一馬の招待で、山奥の豪邸に集まったさまざまな男女。作家、詩人、画家、劇作家、女優など、いずれ劣らぬ変人・奇人ぞろい。邸内に異常な愛と憎しみが交錯するうちに、世にも恐るべき、8つの殺人が生まれた! 不連続殺人の裏に秘められた悪魔の意図は何か? 鬼才安吾が読者に挑んだ不滅のトリック! 多くのミステリ作家が絶賛する、日本推理小説史に輝く傑作。第2回探偵作家クラブ賞受賞作。(角川文庫)

この小説は昭和22年9月から翌23年8月にかけ、雑誌「日本小説」において「懸賞付き犯人当て小説」として発表された作品です。が、間違っても坂口安吾は「推理作家」ではありません。

すごいのは、この小説が同時期に発表された『獄門島』(横溝正史)や『刺青殺人事件』(高木彬光)をさしおいて、第2回探偵作家クラブ賞(現・日本推理作家協会賞)を受賞しているということです。

推理作家による数多ある秀作を退けて、いわば「素人」の手になる初めての作品が一番の賞を獲ったわけです。時代が違い、さすがに古めかしくもありますが、それでも現在まで版を重ねているのは、確かに読まれ続けているということ。蓋し名作で、今あるミステリーの原点とも言え、読むとちょっと自慢になるかもしれません。

※山奥にある資産家の館で繰り広げられる8件もの殺人は、残忍かつ非道でありながら、現実には起こり得ない、よくできたドラマを観ているような感じがします。

登場人物が多くややこしいと感じるかもしれませんが、それぞれのキャラクターが際立っており、案外混乱せずに読むことができます。さすがに文章は時代がかっており慣れるまでは苦労もしますが、そのうち段々と気にならなくなります。

中に登場する巨勢(こせ)博士 - 博士と言っても、実際は博士でも何でもありません。本業よりも探偵に凝り出した弱冠29歳の若僧です。大いなる尊敬と揶揄をこめて「博士」と呼ばれています - がする圧巻の種明かしまで、粘り強く読んでみてください。

余談ですが、暇な方は「坂口安吾」を検索し、Wikipediaを開いてみてください。この人がどんな人かがわかる、ちょっと驚く写真が載っています。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆坂口 安吾
1906年新潟県新潟市生まれ。55年、脳出血により48歳で急逝。
東洋大学印度哲学倫理学科卒業。

作品 「堕落論」「二流の人」「風博士」「白痴」「桜の森の満開の下」他多数

関連記事

『八月の青い蝶』(周防柳)_書評という名の読書感想文

『八月の青い蝶』周防 柳 集英社文庫 2016年5月25日第一刷 急性骨髄性白血病で自宅療養するこ

記事を読む

『天国はまだ遠く』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『天国はまだ遠く』瀬尾 まいこ 新潮文庫 2022年5月25日 29刷 著者史上

記事を読む

『星々の悲しみ』(宮本輝)_書評という名の読書感想文

『星々の悲しみ』宮本 輝 文春文庫 2008年8月10日新装版第一刷 喫茶店に掛けてあった絵を盗み

記事を読む

『パレートの誤算』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『パレートの誤算』柚月 裕子 祥伝社文庫 2019年4月20日初版 ベテランケース

記事を読む

『虹』(周防柳)_書評という名の読書感想文

『虹』周防 柳 集英社文庫 2018年3月25日第一刷 二十歳の女子大生が溺死体で発見された。両手

記事を読む

『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』 白石 一文 講談社 2009年1月26日第一刷 どちらかと

記事を読む

『文身』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文

『文身』岩井 圭也 祥伝社文庫 2023年3月20日初版第1刷発行 この小説に書か

記事を読む

『かたみ歌』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『かたみ歌』 朱川 湊人 新潮文庫 2008年2月1日第一刷 たいして作品を読んでいるわけではな

記事を読む

『橋を渡る』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『橋を渡る』吉田 修一 文春文庫 2019年2月10日第一刷 ビール会社の営業課長

記事を読む

『人のセックスを笑うな』(山崎ナオコーラ)_書評という名の読書感想文

『人のセックスを笑うな』山崎 ナオコーラ 河出書房新社 2004年11月30日初版 彼女が2

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『天使のにもつ』(いとうみく)_書評という名の読書感想文

『天使のにもつ』いとう みく 双葉文庫 2025年3月15日 第1刷

『救われてんじゃねえよ』(上村裕香)_書評という名の読書感想文

『救われてんじゃねえよ』上村 裕香 新潮社 2025年4月15日 発

『我らが少女A (上下)』 (高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A (上下)』高村 薫 毎日文庫 2025年5月10日

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑