『第8監房/Cell 8』(柴田 錬三郎/日下三蔵編)_書評という名の読書感想文

『第8監房/Cell 8』柴田 錬三郎/日下三蔵編 ちくま文庫 2022年1月10日第1刷

さあ、殺されておいで

剣豪小説の大家が残した 狂気のミステリ短篇
巧みなストーリーテリングと衝撃のラスト  シバレンの現代小説、幻の傑作!!!

剣豪小説の大家として知られる著者は、現代もののミステリも多数残した。本書は表題作 「第8監房」 を筆頭に、主に1950年代に発表され現在は入手困難な短篇を集めたオリジナル作品集。東京の裏社会、スパイ工作、連続猟奇殺人、禁断の愛 - 巧みなストーリーテリングと衝撃の結末で贈る 〈狂気〉 ほとばしる作品群。幻の 『盲目殺人事件』 を完全収録し、日下三蔵氏による詳細な解説も併録。(ちくま文庫)

知っていたのは、名前だけ。時代小説専門の作家さんだと思っていました。昔の人というイメージで、おそらく読むことはないだろうと。「柴田錬三郎」 だから読んだわけではありません。表紙の画と 「第8監房」 というタイトルに、つい手が伸びました。

ミステリアスな短篇が計8篇、収められています。「実話」 をヘースに、それを著者が自在に色付けして完成させた作品群、とでも言えばよいのでしょうか。事実と虚構を織り交ぜて、(読み物として) 巧みに工夫されているのがわかります。

著者曰く、

私は、もともと、フィクションとノンフィクションを、劃然と区別するのはおかしいと思っている。いかなる小説も、作家の目的あるいは耳に入った素材が土台になっている。ただ、その素材の使用量の多少のちがいにすぎない。いかなる実話も、筆者の想像が加えられない筈はない。そしてまた、遺された記録もそうであるとすれば、それを写すことは必ずしも真相をつたえることにはなるまい。

いってみれば、本書の各篇は、実話的小説乃至は小説的実話ということになりそうである。したがって、「これは本当にあったことか」 と訊ねられては当惑するし、反対に、「まるっきり出鱈目なんだろう」 ときめつけられるのも困る。

明治年間に、無名の平凡な夫婦が幾百万組も存在したことが事実としても、それは殆んど無意味であるかわりに、かの貫一お宮が架空の人物であるにも拘わらず、実在した以上の意味をもっているということを、私は、疑わないのである。(『妃殿下と海賊』 より 鱒書房 1956年)

まこと、その通りだろうと。後は読むこちら側の問題、想像力の如何だろうと。

※本書に収めた作品は、いずれも昭和二十年代後半から昭和三十年代前半にかけて発表されたものであるため、作中に登場する語句や表現、登場人物たちの人権感覚などにも、当然ながら、執筆当時のものが反映されている。時代の変化によって、現在では不適当とされるものも多く、特に癩病 (ハンセン病) の描写については、科学的に誤りであると判明しているので、その旨ご留意いただきたい。
語句の改変は行っていないので、発表年代を考慮しながら、ストーリー自体の面白さを楽しんでいただければ幸いである。(解説より)

この本を読んでみてください係数 80/100

◆柴田 錬三郎
1917-78年。岡山県備前市生まれ。
慶応義塾大学支那文学科卒業。

作品 52年、「イエスの裔」 で第26回直木賞を受賞。以後、時代小説を中心に創作。代表作に「眠狂四郎無類控」「三国志 英雄ここにあり」など。本作は、著者には珍しい現代小説である。

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