『妻籠め』(佐藤洋二郎)_書評という名の読書感想文

『妻籠め』佐藤 洋二郎 小学館文庫 2018年10月10日初版


妻籠め (小学館文庫)

父を亡くし、少年の頃の怪我がもとで足が不自由になったわたしは、母に気兼ねする内向的な性格になっていた。そして青春時代に、恩師とも言える神父の失踪と親しかった友人の自死を経験した。二つの喪失を抱えて生きるわたしの前に現れたのが、教え子である女子大生の真琴だった。

心ざわめくわたしは、求められるままに真琴と山陰の神社や遺跡を巡る旅に出ることになった。それが、二つの喪失に関しての謎を解き明かすことになるとは - 。波風の立たないように静かに暮らしていたわたしに、転機が訪れる。美しい文章で綴られた著者の最高傑作、遂に文庫化。(小学館文庫)

厄介なものを読みました。

帯にこんなコメントがあります。

この作品は美しい。文章から滲み出る重苦しい雰囲気も、情景がありありと浮かぶ洗練された描写も、随所にちりばめられた著者自身の言葉も、すべて。そして何より、終盤からの鮮やかな反転と、輝きだす世界が圧巻である。 (宮脇書店南本店 奥村知広さん)

- 本当なのでしょうか?

この小説を読み、良いと感じる人が、いるにはいるのでしょう。但し、この作品が美しいかと問われると、それは違うと思うのです。(「美しい」 にも色々ありますが) もしも主人公の母を思う気持ちが本物なら、私もそうは感じなかったはずです。

主人公の 「わたし」 は、十分自覚がありながら、大人になった今でも、未だ母を蔑ろにしています。東京での一人暮らしをやめる気配はなく、故郷の山陰に帰ろうとはしません。母が東京での暮らしを嫌がるのをよいことに、漫然とした日々を送っています。

母を思う気持ちに嘘がないというのなら、なぜ東京 (の仕事) に固執するのか。そこがわからない。

たぶんですが、「わたし」 は帰りたくなどないのです。田舎に戻り、年老いた母とする二人暮らしは、おそらくは味気の無いものでしょう。なら、そうならそうと正直に書けばいい。

言い訳がましさばかりの果てに、(あろうことか) してはならない恋をする。それがいかにも 「文学」 であるかのように書いてある。

 

この本を読んでみてください係数 75/100


妻籠め (小学館文庫)

◆佐藤 洋二郎
1949年福岡県遠賀郡生まれ。
中央大学経済学部卒業。

作品 「河口へ」「夏至祭」「岬の蛍」「イギリス山」「グッバイマイラブ」他多数

関連記事

『電球交換士の憂鬱』(吉田篤弘)_書評という名の読書感想文

『電球交換士の憂鬱』吉田 篤弘 徳間文庫 2018年8月15日初刷 電球交換士の憂鬱 (徳間文

記事を読む

『たそがれどきに見つけたもの』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『たそがれどきに見つけたもの』朝倉 かすみ 講談社文庫 2019年10月16日第1刷 たそが

記事を読む

『青くて痛くて脆い』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『青くて痛くて脆い』住野 よる 角川書店 2018年3月2日初版 青くて痛くて脆い 『君の膵臓をた

記事を読む

『夜葬』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『夜葬』最東 対地 角川ホラー文庫 2016年10月25日初版 夜葬 (角川ホラー文庫) あ

記事を読む

『月蝕楽園』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『月蝕楽園』朱川 湊人 双葉文庫 2017年8月9日第一刷 月蝕楽園 (双葉文庫) 癌で入院

記事を読む

『太陽の坐る場所』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『太陽の坐る場所』辻村 深月 文春文庫 2011年6月10日第一刷 太陽の坐る場所 (文春文庫

記事を読む

『麦本三歩の好きなもの 第一集』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『麦本三歩の好きなもの 第一集』住野 よる 幻冬舎文庫 2021年1月15日初版 麦本三歩の

記事を読む

『鳥の会議』(山下澄人)_書評という名の読書感想文

『鳥の会議』山下 澄人 河出文庫 2017年3月30日初版 鳥の会議 (河出文庫 や) ぼく

記事を読む

『父からの手紙』(小杉健治)_書評という名の読書感想文

『父からの手紙』小杉 健治 光文社文庫 2018年12月20日35刷 父からの手紙 (光文社

記事を読む

『17歳のうた』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『17歳のうた』坂井 希久子 文春文庫 2019年5月10日第1刷 17歳のうた (文春文庫

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『騙る』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『騙る』黒川 博行 文藝春秋 2020年12月15日第1刷 騙

『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)_書評という名の読書感想文

『ケーキの切れない非行少年たち』宮口 幸治 新潮新書 2020年9月

『ひとでちゃんに殺される』(片岡翔)_書評という名の読書感想文 

『ひとでちゃんに殺される』片岡 翔 新潮文庫 2021年2月1日発行

『藤色の記憶』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『藤色の記憶』あさの あつこ 角川文庫 2020年12月25日初版

『初めて彼を買った日』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『初めて彼を買った日』石田 衣良 講談社文庫 2021年1月15日第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑