『虹』(周防柳)_書評という名の読書感想文
『虹』周防 柳 集英社文庫 2018年3月25日第一刷
二十歳の女子大生が溺死体で発見された。両手首と片足首には縄で縛ったような痕があり、彼女は妊娠をしていた。最愛の娘を亡くし、晶子は呆然とする。なぜ死んでしまったのか、子供の父親は誰なのか。自殺と断定して捜査を打ち切った警察に代わり、母は残りの人生を賭けてその真相を追うことを決意する。復讐のかなたに晶子が目にした光景とは - 。極限の人間心理を描く衝撃の長編ドラマ。(集英社文庫)
広島での父の被爆体験を元にした彼女のデビュー作『八月の青い蝶』とは打って変わって、今回(三作目)は「罪と罰のありよう」、「報復の是非を問う」衝撃のミステリーです。
愛する娘をある日突然奪われた時、母は何を思うのでしょう - あまりな現実を前にして、彼女は一時、何も考えられなくなります。
晶子の娘・楓子は国立大学に通う、どちらかといえば地味で奥手の、真面目に過ぎるくらいの女子大生でした。そんな彼女がある日、溺死体となって発見されます。
遺書はなく、何も言わないままに、楓子が「自殺した」のは、親子二人で正月休みを過ごして別れた数日後のことでした。大学三年生、二十歳の楓子は、足立区と荒川区の境界の、隅田川にかかるS橋から、真冬の夜の冷たい川に身を投げ、自ら命を絶ったのでした。
遺体の両手首と片足首に、縄で縛ったような痕があります。さらに、彼女が妊娠していたという事実がわかります。
夫の浮気が原因で、10年前に離婚した晶子。小さな会社で働きながら、娘の楓子を独りで育ててきた。大学生になった楓子がある日、遺体となって発見される。遺体には不審な点があるものの、目撃者の証言から自殺と分かる。娘を死に追い込んだのは何なのか。絶望状態から少し立ち直った晶子は、元刑事の探偵と真相を探っていく - というお話。
※晶子が言う「心の声」が強過ぎて、ちょっと読み辛い感じがします。わざとでしょうが、何のことかが、よくわからないところがあります。
中に登場する未成年のフリーター、「R」がいい。彼の持つ不穏な空気、何を考えているのかわからない無表情さと冷めた雰囲気。「R」を、もっともっと書いて欲しかったと思います。
この本を読んでみてください係数 75/100
◆周防 柳
1964年東京都生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。
作品 「八月の青い蝶」「余命二億円」「逢坂の六人」など
関連記事
-
-
『眠れない夜は体を脱いで』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文
『眠れない夜は体を脱いで』彩瀬 まる 中公文庫 2020年10月25日初版 自分の
-
-
『よるのばけもの』(住野よる)_書評という名の読書感想文
『よるのばけもの』住野 よる 双葉文庫 2019年4月14日第1刷 夜になると、僕
-
-
『第8監房/Cell 8』(柴田 錬三郎/日下三蔵編)_書評という名の読書感想文
『第8監房/Cell 8』柴田 錬三郎/日下三蔵編 ちくま文庫 2022年1月10日第1刷
-
-
『しゃべれども しゃべれども』(佐藤多佳子)_書評という名の読書感想文
『しゃべれども しゃべれども』佐藤 多佳子 新潮文庫 2012年6月10日27刷 俺は今昔亭三つ葉
-
-
『夏目家順路』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『夏目家順路』朝倉 かすみ 文春文庫 2013年4月10日第一刷 いつもだいたい機嫌がよろしい
-
-
『その街の今は』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文
『その街の今は』柴崎 友香 新潮社 2006年9月30日発行 ここが昔どんなんやったか、知りたいね
-
-
『ただいまが、聞きたくて』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文
『ただいまが、聞きたくて』坂井 希久子 角川文庫 2017年3月25日発行 埼玉県大宮の一軒家に暮
-
-
『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈)_書評という名の読書感想文
『成瀬は天下を取りにいく』宮島 未奈 新潮社 2023年3月15日発行 「島崎、わ
-
-
『長いお別れ』(中島京子)_書評という名の読書感想文
『長いお別れ』中島 京子 文春文庫 2018年3月10日第一刷 中央公論文芸賞、日本医療小説大賞
-
-
『また、桜の国で』(須賀しのぶ)_これが現役高校生が選んだ直木賞だ!
『また、桜の国で』須賀 しのぶ 祥伝社文庫 2019年12月20日初版 1938年

















