『銀河鉄道の父』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の父』門井 慶喜 講談社 2017年9月12日第一刷


銀河鉄道の父 第158回直木賞受賞

第158回直木賞受賞作。

明治29年(1896年)、岩手県花巻に生まれた宮沢賢治は、昭和8年(1933年)に亡くなるまで、主に東京と花巻を行き来しながら多数の詩や童話を創作した。賢治の生家は祖父の代から富裕な質屋であり、長男である彼は本来なら家を継ぐ立場なのだが、賢治は学問の道を進み、後には教師や技師として地元に貢献しながら、創作に情熱を注ぎ続けた。
地元の名士であり、熱心な浄土真宗信者でもあった賢治の父・政次郎は、このユニークな息子をいかに育て上げたのか。父の信念とは異なる信仰への目覚めや最愛の妹トシとの死別など、決して長くはないが紆余曲折に満ちた宮沢賢治の生涯を、父・政次郎の視点から描く、気鋭作家の意欲作。(講談社BOOK倶楽部より) 

雨ニモマケズ  宮沢賢治

雨にも負けず 風にも負けず
雪にも 夏の暑さにもまけぬ
丈夫なからだをもち
欲はなく 決して怒らず
いつも静かに笑っている
一日に 玄米四合と 味噌と
少しの野菜を食べ
あらゆることを
自分の勘定に入れずに
よく 見聞きし 分かり
そして 忘れず
野原の 松の林の 陰の
小さな 萱ぶきの 小屋にいて
東に病気の子供あれば
行って 看病してやり
西に疲れた母あれば
行って その稲の束を負い
南に死にそうな人あれば
行って 怖がらなくてもいいと言い
北に喧嘩や訴訟があれば、
つまらないから やめろと言い
日照りの時は 涙を流し
寒さの夏は おろおろ歩き
みんなに 木偶坊と呼ばれ
褒められもせず 苦にもされず
そういうものに 私はなりたい

宮沢賢治が亡くなったのは、37歳。仏教(法華経)信仰と農民生活に根ざした創作活動のさなか、彼は再度 - ほぼ結核である - という診断を受けます。最愛の妹のトシがそうであったように、半月後には繰り返し、のどの渇きを訴えるようになります。いったん咳をはじめると、それは、ときに二時間半も続きます。

枕もとには筆立てがあり、中に四、五本、色の違う鉛筆が入っています。熱が引き、咳が来ず、すらすら息ができるひととき。賢治はゆっくりと身を起こし、ふとんの上に正座して、黒い、革装の、手のひらにおさまる大きさの手帳をひざに置きます。

賢治が書いているのはほとんどが縦書きの日本語で、文語詩のようなものがあり、誰かの俳句の引用らしきものもあります。しかし、鉛筆がしっかり握れないせいなのでしょう、文字のかたちはくずれ、ことにひらがなは、蚯蚓があばれるようなかたちをしています。

賢治は、或る日はカタカナで詩を書きます。カタカナは字形が単純で、だから少々くずれていても読むことができます。父・政次郎がちらりと見ると、そこに、

- マケズ
- マケズ
- マケズ
などと、書いてあります。

この小説に描かれた宮沢賢治はごく普通の青年で、そこがとても新鮮である。

生き生きとした等身大の賢治像が立ち現れたのは、父である政次郎の視点から描くという構造によるところも大きい。この父がじつに偉大だ。賢治は家業の質屋が肌に合わず自分で事業を起こそうとしたり、国柱会の布教活動に熱中したりする。若さゆえの前のめりだ。父はそんな賢治を厳しくたしなめつつも援助を惜しまない。子が病気になれば病院に泊まり込んで看病までする。成功した事業家であり家族思いの父。偉大すぎる親を持つ息子が、もがき苦しんだ末に儚く美しい詩と童話を紡ぎ出したことは、切なくも運命的だ。父を超えたい、という不変の命題に賢治も向き合っていたかと思うと、彼の作品にもいちだんと親しみが湧いてくる。(「週刊朝日」掲載の石原さくら氏の書評より)

 

この本を読んでみてください係数  85/100


銀河鉄道の父 第158回直木賞受賞

◆門井 慶喜
1971年群馬県生まれ。
同志社大学文学部卒業。

作品 「キッドナッパーズ」「東京帝大叡古教授」「家康、江戸を建てる」「マジカル・ヒストリー・ツアー/ミステリと美術で読む現代」(評論) 他多数

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