『完璧な母親』(まさきとしか)_今どうしても読んで欲しい作家NO.1
公開日:
:
最終更新日:2024/01/09
『完璧な母親』(まさきとしか), まさきとしか, 作家別(ま行), 書評(か行)
『完璧な母親』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年3月30日10刷
「八日目の蝉」 「WOMEN」 に泣いた人はまた涙する! 母の愛の物語。
テレビで見る可哀相な事件が、まさか自分に起こるなんて思いもしなかった午後、うちの子は死んだ。
第一章は、北関東のT市で、夫や6歳の息子・波琉と3人で暮らす主婦・友高知可子の視点で描かれる。数度の流産のあと、やっと息子を無事に出産し、何の不満もない幸せな毎日を送っていた彼女を、1982年の春、不意に悲劇が襲う。波琉が池で溺死したのだ。
息子を失い悲嘆にくれていた知可子は、やがて驚くべき発想に辿りつく。波琉の誕生日と同じ日に再び子供を産むこと - つまり、もう一度 「波琉の母親」 になることだ。天に願いが通じたのか恐るべき意志力の賜物か、知可子はそれを実現する。生まれたのは息子ではなく娘だが、知可子にとってそれは重要ではない。彼女は娘に波琉子と名づけ、二度目の 「完璧な母親」 としての人生を歩みはじめた・・・・・・・。
- 娘に死んだ兄そっくりの名前をつけるにとどまらず、誕生日には二人分のプレゼントを用意し、ケーキに波琉子の年齢より7本多いろうそくを立てるなど、娘に兄の生まれ変わりであることを常に意識させ続ける育て方は明らかに常軌を逸している。
知可子の視点から描かれるだけに、彼女の中に根を張る 「波琉子は波琉の生まれ変わりである」 という思い込みの強さと、それを正当化する論理には慄然とさせられる。それは客観的には狂気に近い心理状態だが、彼女にとってはその正しさは自分で腹を痛めた母親にしかわからないという確信がある。夫や娘の担任がいかに子育てのやり方をたしなめようとも、彼女の信念が揺らぐことはない。(解説からの抜粋/省略有)
波琉子は、それでも母を愛さずにはいられません。
幸せでありたいと願う気持ちが度を超すと、えてしてそれは逆の結果をもたらすことになります。無理が高じて、予期せぬ事態を招くことになります。摑めたはずの幸せを、掴み損ねてしまうことにもなり兼ねません。
波琉子にとって母・知可子は、どんな存在だったのでしょう。今いる自分よりもなお、死んだ兄を愛しく思う母は、幼い彼女にどんな思いをもたらしたのでしょう。
憎んでも、憎んでも憎み切れずに、それでも憎まずにはいられない波琉子の魂は、やがて明かされる兄・波琉の死の真相に、吸い寄せられるように近づいていきます。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。
作品 「夜の空の星の」「熊金家のひとり娘」「いちばん悲しい」「途上なやつら」「きわこのこと」「ゆりかごに聞く」「屑の結晶」他
関連記事
-
『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ
-
『教団X』(中村文則)_書評という名の読書感想文
『教団X』中村 文則 集英社文庫 2017年6月30日第一刷 突然自分の前から姿を消した女性を探し
-
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』村田 沙耶香 角川文庫 2023年2月25日初版発行
-
『凶犬の眼』(柚月裕子)_柚月裕子版 仁義なき戦い
『凶犬の眼』柚月 裕子 角川文庫 2020年3月25日初版 広島県呉原東署刑事の大
-
『公園』(荻世いをら)_書評という名の読書感想文
『公園』荻世 いをら 河出書房新社 2006年11月30日初版 先日、丹下健太が書いた小説 『青
-
『黒牢城』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文
『黒牢城』米澤 穂信 角川文庫 2024年6月25日 初版発行 4大ミステリランキングすべて
-
『いけない』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文
『いけない』道尾 秀介 文春文庫 2022年8月10日第1刷 ★ラスト1ページです
-
『私が失敗した理由は』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
『私が失敗した理由は』真梨 幸子 講談社文庫 2019年9月13日第1刷 ・・・・
-
『綺譚集』(津原泰水)_読むと、嫌でも忘れられなくなります。
『綺譚集』津原 泰水 創元推理文庫 2019年12月13日 4版 散策の途上で出合
-
『カラフル』(森絵都)_書評という名の読書感想文
『カラフル』森 絵都 文春文庫 2007年9月10日第一刷 生前の罪により輪廻のサイクルから外され