『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄), 作家別(か行), 書評(は行), 窪美澄

『ふがいない僕は空を見た』窪 美澄 新潮文庫 2012年10月1日発行

高校一年生の斉藤くんは、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気づくのだが - 。姑に不妊治療をせまられる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを鮮やかに写し取った連作長編。R-18文学賞大賞、山本周五郎賞W受賞作。(新潮文庫)

- 終わったわ、斉藤の人生・・・・・・・

主婦と付き合う高校生。家庭に居場所がない主婦。
古い団地に暮らす同級生。そして、命を見つめる助産師の母。

「なんでおれを生んだの? 」
「自分だけ不幸なふりしてんじゃねーよ」
「ばかな恋愛したことない奴なんて、この世にいるんすかね・・・

- ままならない人生を、それでも生きていく。
僕たちは、僕たちの人生を 本当に自分で選んだのだろうか。

ふがいない僕は空を見た。

※巻末にある解説からの抜粋 (by 重松清)

本書に登場するひとたちは、誰もがそれぞれに大きな「欠落」や「喪失」を抱えて生きている。とりわけ家庭については、どこもかしこも穴ぼこだらけと言ってもいい。そんな「欠落」「喪失」を軸に据えれば、傷ついた彼や彼女たちの悲しみに満ちた物語は容易につくれるだろう。

だが - 窪さんが描き出したものは違う。まるっきり逆だった。彼や彼女たちが失ってしまったものではなく、彼や彼女たちがどうにも持て余してしまう〈やっかいなもの〉=「過剰」を活写した。失われたものを無視したのではない。前提なのだ。出発点なのだ。

もはや同時代小説の主題として消費され尽くした感のある「欠落」「喪失」にとどまるのではなく、その先にあるものへと、窪さんは目を向けている。それこそが、〈やっかいなものを体に抱えて、死ぬまで生きなくちゃいけない〉ということ - 。

〈やっかいなもの〉を捨てろ、というのならいい。〈やっかいなもの〉を別のものに変えてしまうのなら、まだわかりやすい。だが、五編の主役たちは、その道を選んでいない。〈やっかいなもの〉をやっかいなまま〈今後ますますやっかいになりそうな予感さえはらみつつ〉自らの内に抱え込んで、〈死ぬまで生きなくちゃいけない〉のである。(P314.315)

※目次
ミクマリ
世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
2035年のオーガズム
セイタカアワダチソウの空
花粉・受粉

この本を読んでみてください係数 85/100

◆窪 美澄
1965年東京都稲城市生まれ。
カリタス女子中学高等学校卒業。短大中退。

作品 「晴天の迷いクジラ」「クラウドクラスターを愛する方法」「アニバーサリー」「雨のなまえ」「さよなら、ニルヴァーナ」など多数

関連記事

『風味絶佳』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『風味絶佳』山田 詠美 文芸春秋 2008年5月10日第一刷 70歳の今も真っ赤なカマロを走ら

記事を読む

『じっと手を見る』(窪美澄)_自分の弱さ。人生の苦さ。

『じっと手を見る』窪 美澄 幻冬舎文庫 2020年4月10日初版 物語の舞台は、富

記事を読む

『罪の名前』(木原音瀬)_書評という名の読書感想文

『罪の名前』木原 音瀬 講談社文庫 2020年9月15日第1刷 木原音瀬著 「罪の

記事を読む

『果鋭(かえい)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『果鋭(かえい)』黒川 博行 幻冬舎 2017年3月15日第一刷 右も左も腐れか狸や! 元刑事の名

記事を読む

『HEAVEN/萩原重化学工業連続殺人事件』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『HEAVEN/萩原重化学工業連続殺人事件』浦賀 和宏  幻冬舎文庫  2018年4月10日初版

記事を読む

『悪の血』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『悪の血』草凪 優 祥伝社文庫 2020年4月20日初版 和翔は十三歳の時に母親を

記事を読む

『偏愛読書館/つかみどころのない話』(林雄司)_書評という名の読書感想文

『偏愛読書館/つかみどころのない話』林 雄司 本の話WEB 2016年5月12日配信 http:/

記事を読む

『平凡』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『平凡』角田 光代 新潮文庫 2019年8月1日発行 妻に離婚を切り出され取り乱す

記事を読む

『鵜頭川村事件』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『鵜頭川村事件』櫛木 理宇 文春文庫 2020年11月10日第1刷 墓参りのため、

記事を読む

『本と鍵の季節』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『本と鍵の季節』米澤 穂信 集英社 2018年12月20日第一刷 米澤穂信の新刊 『

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑