『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2018/06/21 『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄), 作家別(か行), 書評(は行), 窪美澄

『ふがいない僕は空を見た』窪 美澄 新潮文庫 2012年10月1日発行


ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

高校一年生の斉藤くんは、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気づくのだが - 。姑に不妊治療をせまられる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを鮮やかに写し取った連作長編。R-18文学賞大賞、山本周五郎賞W受賞作。(新潮文庫)

 

- 終わったわ、斉藤の人生・・・・・・・

主婦と付き合う高校生。家庭に居場所がない主婦。
古い団地に暮らす同級生。そして、命を見つめる助産師の母。

「なんでおれを生んだの? 」
「自分だけ不幸なふりしてんじゃねーよ」
「ばかな恋愛したことない奴なんて、この世にいるんすかね・・・

- ままならない人生を、それでも生きていく。
僕たちは、僕たちの人生を 本当に自分で選んだのだろうか。

ふがいない僕は空を見た。

 

※巻末にある解説からの抜粋 (by 重松清)

本書に登場するひとたちは、誰もがそれぞれに大きな「欠落」や「喪失」を抱えて生きている。とりわけ家庭については、どこもかしこも穴ぼこだらけと言ってもいい。そんな「欠落」「喪失」を軸に据えれば、傷ついた彼や彼女たちの悲しみに満ちた物語は容易につくれるだろう。

だが - 窪さんが描き出したものは違う。まるっきり逆だった。彼や彼女たちが失ってしまったものではなく、彼や彼女たちがどうにも持て余してしまう〈やっかいなもの〉=「過剰」を活写した。失われたものを無視したのではない。前提なのだ。出発点なのだ。

もはや同時代小説の主題として消費され尽くした感のある「欠落」「喪失」にとどまるのではなく、その先にあるものへと、窪さんは目を向けている。それこそが、〈やっかいなものを体に抱えて、死ぬまで生きなくちゃいけない〉ということ - 。

〈やっかいなもの〉を捨てろ、というのならいい。〈やっかいなもの〉を別のものに変えてしまうのなら、まだわかりやすい。だが、五編の主役たちは、その道を選んでいない。〈やっかいなもの〉をやっかいなまま〈今後ますますやっかいになりそうな予感さえはらみつつ〉自らの内に抱え込んで、〈死ぬまで生きなくちゃいけない〉のである。(P314.315)

※目次
ミクマリ
世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
2035年のオーガズム
セイタカアワダチソウの空
花粉・受粉

 

この本を読んでみてください係数 85/100


ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

◆窪 美澄
1965年東京都稲城市生まれ。
カリタス女子中学高等学校卒業。短大中退。

作品 「晴天の迷いクジラ」「クラウドクラスターを愛する方法」「アニバーサリー」「雨のなまえ」「さよなら、ニルヴァーナ」など多数

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