『裸の華』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『裸の華』桜木 紫乃 集英社文庫 2019年3月25日第一刷

裸の華 (集英社文庫)

時々、泣きます

どこまでも気風のいい、一本筋の通った元ストリッパー。- それが本作の主人公・フジワラノリカだ。
物語は、ノリカが札幌の街に降り立つところから始まる。舞台上で膝に大怪我を負い、治ったはずでも怖れから脚をかばってしまう彼女は、このうえは引退するしかないと思いつめ、古巣のすすきのにダンスショーの店を開いて再出発を図ろうとする。
やがて採用された若手ダンサーは、才能の塊だがなかなか心を開かないみのりと、踊りはほどほどでも柔らかな愛嬌がそれを補う瑞穂。そこへ、かつて 〈銀座の宝石〉 とまで謳われた凄腕のバーテンダーJINや、その友人で画廊を経営する牧田、さらには昔からノリカのファンで余命幾ばくもない小笠原などが絡むことで、当初はゆるやかに始まるかに見えた物語が大きなうねりを見せてゆく。

派手な仕掛けがあるわけではないのにぐいぐいと引き込まれるのは、登場人物一人ひとりの個性が屹立しているからだろう。物語的な目新しさを一切欲張っていないところに、潔さと清々しさを覚える。今日と明日の身の振りを考えるだけで精いっぱいの人間たちが、唯一存在を許される居場所で、ほんのひととき身を寄せ合って生きていこうとする。その切実さは、桜木紫乃でなければ書けない世界だ。

その場その時にだけ生まれる人間関係 - それこそは人生の宝だ。宝は、いつか失われるものと決まっている。特筆すべきは、ノリカにとってはその喪失が同時に、ひりひりするような再生へとつながっていることだ。
ラスト近く、かつて自分を教え導いてくれた師匠との再会の場面は、ただただ胸に迫って苦しい。目をそらすまいと懸命に舞台を見つめるノリカとともに、読者もまた、ともすれば目を背けそうになる自分を鼓舞しながら二人を見つめる。肉体は衰え、痩せさらばえても、なお放たれる芸の輝き。言葉はひと言も交わされないが、師匠から弟子へと手渡されたものは、青みがかったルビー一つではない。

文芸誌 「小説すばる」 に連載された本作 『裸の華』 が、一冊にまとまり上梓された当時、各メディアのインタビュアーはほぼ一人残らず、著者に向かって同じことを訊ねた。女性である著者がストリップにはまったきっかけと、その魅力をだ。

じつのところ桜木がストリップ劇場に足繁く通うようになったのは、何もこの作品の取材のためではないし、踊り子が登場する作品も本作だけではない。すでに 『恋肌』(2009年12月刊、改訂文庫版は 『誰もいない夜に咲く』 と改題) に収録の短編 『フィナーレ』 では、引退する踊り子の心情を見事に描いているし、本作とほぼ同時期に上梓された 『氷の轍』 にも漁港八戸の場末のストリップ小屋が登場する。
ちなみに、最初に通い始めたのは 「オール讀物新人賞」 を受賞して間もない頃だったというから筋金入りだ。きっかけは、当人の言葉によるとこんな具合だった。

北海道新聞の人物インタビュー欄で当時、ススキノにあった札幌道頓堀劇場の大スターだった清水ひとみさんが紹介されていて、記事から芯の強い方という印象を受けたのですが、最後の一文に 「時々、泣きます」 と書かれているのがとても印象的でした。この人の踊りを見てみたい! と思ったのがキッカケですね。(週プレNEWS 2016年8月19日)

以上、全てが解説 (by村山由佳) からの抜粋です。

書きたかったのは最後のインタビュー、ただ一点。それがこんなことになってしまいました。申し訳ありません。

この本を読んでみてください係数  85/100 

裸の華 (集英社文庫)

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「誰もいない夜に咲く」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」他多数

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