『家族じまい』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『家族じまい』(桜木紫乃), 作家別(さ行), 書評(か行), 桜木紫乃

『家族じまい』桜木 紫乃 集英社 2020年11月11日第6刷

家族はいったいいつまで家族なのだろう

子育てに一区切りついた智代のもとに、突然かかってきた妹・乃理からの電話。
「ママがね、ボケちゃったみたいなんだよ」

新しい商売に手を出しては借金を重ね、家族を振り回してきた横暴な父・猛夫と、そんな夫に苦労しながらも共に歳を重ね、今は記憶を失くしつつある母・サトミ。親の老いに直面して戸惑う姉妹と、さまざまに交差する人々。夫婦、親子、姉妹・・・・・・・家族はいったい、いつまで家族なのだろう。北海道を舞台に、家族に正面から向き合った五編からなる連作短編集。(集英社 青春と読書より)

ふたりを単位にして始まった家族は、子供を産んで巣立ちを迎え、またふたりに戻る。そして、最後はひとりになって記憶も散り、家族としての役割を終える。人の世は伸びては縮む蛇腹のようだ。(本文より)

[目次]
第一章 智 代
第二章 陽 紅
第三章 乃 理
第四章 紀 和
第五章 登 美 子

第15回中央公論文芸賞受賞作、桜木紫乃の 『家族じまい』 を読みました。

この小説は、ある老夫婦を中心に、二人に関わる五人の女性たちの 「家族」 を巡る物語です。五人は (老夫婦の) 娘であったり、姉であったり、赤の他人であったりします。現に家族であったり、今は家族でなくなったり、新しく家族になろうとしたりしています。

妻のサトミは物忘れが極端にひどくなり、ついさっき食事をしたことさえ忘れてしまうようになっています。目を離すと際限なく食べようとする妻に、夫の猛夫はほとほと手を焼いています。

症状は悪化の一方で、世話はすれども報われず、猛夫は為す術がありません。彼は時に我慢できずに妻を殴るのですが、しばらく経つと、妻のサトミは殴られたことすら忘れています。

姉の智代は、母のサトミのことを 「サトミさん」 と呼んでいます。他人行儀になったのは、他人行儀になるしかないだけの過去があったからです。実のところ、父の猛夫はそのことを激しく後悔しています。智代とは、悔やむ分だけ疎遠になっています。

二十五歳でバツイチの陽紅 (ようこ) が、今年五十五歳になる片野涼介との縁談を受けたのは、何も断り切れなかったその場の状況だけが理由ではありません。彼女には彼女なりの打算がありました。

紀和は、曲がりなりにもプロのサックス奏者として身を立てています。彼女が猛夫とサトミ夫婦に会ったのは、名古屋から苫小牧へ向かうフェリーのシアターラウンジでのことでした。紀和がする映画音楽の演奏に、二人は大層感激したのでした。猛夫は紀和に、ある頼み事を託します。

登美子にとって唯一の気がかりは、下の娘の珠子のことでした。珠子が背中に刺青を背負った男と暮らし始めてから三十年近く、二人は一度も連絡を取り合ってはいません。思えば珠子は、五十八歳になっています。娘を思い、同時に、登美子は八十歳になった妹・サトミのことを思い出します。

※「家族をしまう」 の 「しまう」 は、「終う」 ではなく 「仕舞う」 であるらしい。ただ 「終う」 のではなく、「仕舞う」 準備と覚悟が要るらしい。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「誰もいない夜に咲く」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」他多数

関連記事

『氷の致死量』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『氷の致死量』櫛木 理宇 ハヤカワ文庫 2024年2月25日 発行 『死刑にいたる病』 の著

記事を読む

『身の上話』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『身の上話』佐藤 正午 光文社文庫 2011年11月10日初版 あなたに知っておいてほしいのは、人

記事を読む

『吉祥寺の朝日奈くん』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『吉祥寺の朝日奈くん』中田 永一 祥伝社文庫 2012年12月20日第一刷 彼女の名前は、上から読

記事を読む

『永遠の1/2 』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『永遠の1/2 』佐藤 正午 小学館文庫 2016年10月11日初版 失業したとたんにツキがまわっ

記事を読む

『ウィメンズマラソン』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ウィメンズマラソン』坂井 希久子 ハルキ文庫 2016年2月18日第一刷 岸峰子、30歳。シ

記事を読む

『幻年時代』(坂口恭平)_書評という名の読書感想文

『幻年時代』坂口 恭平 幻冬舎文庫 2016年12月10日初版 4才の春。電電公社の巨大団地を出て

記事を読む

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』(澤村御影)_書評という名の読書感想文

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』澤村 御影 角川文庫 2017年4月25日初版 今どき流

記事を読む

『虹』(周防柳)_書評という名の読書感想文

『虹』周防 柳 集英社文庫 2018年3月25日第一刷 二十歳の女子大生が溺死体で発見された。両手

記事を読む

『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『彼女は頭が悪いから』姫野 カオルコ 文藝春秋 2018年7月20日第一刷 (読んだ私が言うのも

記事を読む

『教場2』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『教場2』長岡 弘樹 小学館文庫 2017年12月11日初版 必要な人材を育てる前に、不要な人材を

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『天使のにもつ』(いとうみく)_書評という名の読書感想文

『天使のにもつ』いとう みく 双葉文庫 2025年3月15日 第1刷

『救われてんじゃねえよ』(上村裕香)_書評という名の読書感想文

『救われてんじゃねえよ』上村 裕香 新潮社 2025年4月15日 発

『我らが少女A (上下)』 (高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A (上下)』高村 薫 毎日文庫 2025年5月10日

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑