『ビタミンF』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ビタミンF』重松 清 新潮社 2000年8月20日発行


ビタミンF (新潮文庫)

 

炭水化物やタンパク質やカルシウムのような小説があるのなら、ひとの心にビタミンのようにはたらく小説があったっていい。そんな思いを込めて、七つの短いストーリーを紡いでいった。Family、Father、Friend、Fight、Fragile、Fortune・・・〈F〉で始まるさまざまな言葉を、個々の作品のキーワードとして埋め込んでいったつもりだ。そのうえで、結局はFiction、乱暴に意訳するなら「お話」の、その力をぼく(著者)は信じていた。(「BOOK」データベースより)

第124回の直木賞受賞作品です。と言いますか、「重松清の鉄板ネタです」と言った方が
通りがいいかも知れません。もう一つ、アマゾンからの解説を紹介しておきます。

38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に抵抗感がなくなった。40歳、中学1年生の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた・・・。
一時の輝きを失い、人生の〈中途半端〉な時期にさしかかった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか - 」心の内で、こっそり呟きたくなる短編7編。

思えば、結婚した頃は本当に楽しかった。妻とは同い年で、中学校で知り合った仲です。高校も同じところ。さすがにその後は別々になりましたが、知り合った当初からの付き合いは途切れることなく、24歳で一緒になりました。

結婚した年に長男が生まれ、3年後には次男が生まれました。親バカですが、2人とも可愛かった。特に長男が生まれたときは、妻の実家の両親が大層喜んでくれました。妻は2人姉妹の長女で、義父や義母にとっては初孫だったのです。

私は田舎の長男坊でしたので、親とは同居です。妻が産休明けで仕事に復帰すると、昼間は両親に子どもを預け、夫婦共稼ぎの毎日です。平日は私の母親が夕飯の支度をしてくれるのですが、それでも家に帰れば帰ったで、慌ただしく騒々しい毎日でした。

働き出して2年目の私と4年目の妻 - 2人合わせても決して充分とは言えない給料でしたが、たまの休日にささやかな贅沢をするくらいのことはできます。子どものための諸々を選んでいるときの妻は本当に楽しそうで、遊び疲れた息子があたり前のように私に向かって両手を広げ、抱っこをせがむのが愛おしくてならなかったものです。
・・・・・・・・・・
子どもは、いつかは親から離れていく-これは当たり前のことです。いくつになってもべったりで、誰とも遊ばず、どこにも出かけないような子どもなら、それはそれで心配なのです。素気無くされたら寂しくて、頼られてばかりでも心配なのが親というものです。

あれよあれよという間に大きくなって、あれほどどこかへ連れて行けとせがんだくせに、ある頃を境にして、今度は「親とは一緒に行きたくない」「親と一緒のところを友だちや同級生には見られたくない」なんぞとほざきます。目も合わせずに、ほざくのです。

子どもが中学生になり、高校生になる時期というのは、親にとってもいささかややこしい時期です。中学生になれば、子どもはもはや単なる「子ども」ではなくなり、「独立した生きもの」になるべく、ものすごいスピードで「自己形成」を成し遂げていきます。

この時期になると、子どもが毎日学校でどうしているのか、部屋に閉じこもったまま何を考えているのか、何に感動し、何に対して怒っているのか・・・、親とは言いながら、実は何一つ分からなくなっています。

大抵の親はこの辺りで立往生して、途方に暮れます。子どもにとっては、おそらく一番親が鬱陶しく感じられる時期でもあります。

そんなときです。そんなときに限って、子どもが何やら事件を起こしてしまう。子どもの様子が普段と違うから、さり気に理由を聞き出してくれと妻から言われてしまう。父親なら父親らしい態度で、父親らしいことを言ってくれと迫られるのです。

さて、ちょうど年頃の息子や娘がいるあなた。あなたなら、どうします? 子どもに対してちゃんと親らしい態度で臨むことができますか? 「それはお前の問題だから、お前自身がしっかり考えなさい」などと、分かったような言葉で誤魔化してはいないでしょうか。

大丈夫です。たとえ、残業続きで口をきかない日が長くあったとしても、どこの誰と仲が良くて家では毎日何をしているのか、学校ではクラスメイトからどんな風に見られているのか、食事が済むと避けるように自分の部屋へ行く理由は何なのか。そんなことの、全部が分からなくてもいいのです。

親にしてみれば、如何なる時でも子どもは子どもです。拗ねたように見えても、子どもはあなたの言葉を待っています。借り物ではいけません。あなた自身の言葉を待っているのです。覚悟をしてください。親であるならば、いつになっても「子離れ」などできはしないのです。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


ビタミンF (新潮文庫)

◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。角川書店の編集者として勤務後、執筆活動に入る。

作品「ナイフ」「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「エイジ」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「あすなろ三三七拍子」「星のかけら」「ゼツメツ少年」他多数

関連記事

『ハリガネムシ』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『ハリガネムシ』吉村 萬壱 文芸春秋 2003年8月31日第一刷 ハリガネムシ (文春文庫)

記事を読む

『八月の路上に捨てる』(伊藤たかみ)_書評という名の読書感想文

『八月の路上に捨てる』伊藤 たかみ 文芸春秋 2006年8月30日第一刷 八月の路上に捨てる

記事を読む

『虹』(周防柳)_書評という名の読書感想文

『虹』周防 柳 集英社文庫 2018年3月25日第一刷 虹 (集英社文庫) 二十歳の女子大生

記事を読む

『徘徊タクシー』(坂口恭平)_書評という名の読書感想文

『徘徊タクシー』坂口 恭平 新潮文庫 2017年3月1日発行 徘徊タクシー (新潮文庫) 徘

記事を読む

『翼』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『翼』白石 一文 鉄筆文庫 2014年7月31日初版   翼 (鉄筆文庫 し

記事を読む

『ひなた弁当』(山本甲士)_書評という名の読書感想文

『ひなた弁当』山本 甲士 小学館文庫 2019年3月20日第9刷 ひなた弁当 (小学館文庫)

記事を読む

『ニワトリは一度だけ飛べる』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ニワトリは一度だけ飛べる』重松 清 朝日文庫 2019年3月30日第1刷 ニワトリは一度だ

記事を読む

『起終点駅/ターミナル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『起終点駅/ターミナル』桜木 紫乃 小学館文庫 2015年3月11日初版 起終点駅(ターミナル

記事を読む

『箱庭図書館』(乙一)_書評という名の読書感想文

『箱庭図書館』乙一 集英社文庫 2013年11月25日第一刷 箱庭図書館 (集英社文庫) 僕

記事を読む

『白い部屋で月の歌を』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『白い部屋で月の歌を』 朱川 湊人 角川ホラー文庫 2003年11月10日初版 白い部屋で月の

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『家族じまい』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『家族じまい』桜木 紫乃 集英社 2020年11月11日第6刷

『罪の名前』(木原音瀬)_書評という名の読書感想文

『罪の名前』木原 音瀬 講談社文庫 2020年9月15日第1刷

『ゴースト』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『ゴースト』中島 京子 朝日文庫 2020年11月30日第1刷

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷

『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑