『ひらいて』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2015/03/27 『ひらいて』(綿矢りさ), 作家別(わ行), 書評(は行), 綿矢りさ

『ひらいて』綿矢 りさ 新潮社文庫 2015年2月1日発行


ひらいて (新潮文庫)

 

文庫の解説は、タレントの光浦靖子さんが書いています。この人テレビではとぼけたキャラでダメ女を演じていますが、ほんとは(失礼な言い方ですが)とても頭の良い人なんですよね。いつも飄々として、めったに本音を言わないけれど、どこかに賢い本人が顔を出していて、それをまた隠すようにバカなことを言ってるのがよく分かるのです。

解説と言うより感想なのですが、これが実に素直で正直な感想なのです。専門用語が飛び交う解説より、はるかに登場人物の愛や美雪の気持ちを代弁しているし、綿矢りさの能力を正しく認めています。同性として共感できないことはできないと、はっきり言い切るところも遠慮がなくて気分が良いのです。
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『ひらいて』の主人公は、大学受験を間近に控えた愛という女子高生です。綿矢りさにはめずらしく(?!)、彼女はかなり能動的な、思ったことをはっきり口に出し、やろうと考えたことは即座に行動に移すような、その分クラスでは少々浮き気味の存在です。

彼女が密かに憧れるのが、西村たとえという変った名前の同級生。たとえはクラスでも地味な存在で、好きなタイプではないのですが、なぜか愛は深く心を惹かれています。

たとえの本心を探ろうと、愛がとった行動はかなり大胆なものです。(光浦さんは、滅茶苦茶だと言っています)たとえがこっそり読んでいた手紙の内容が知りたくて、夜の教室に忍び込み、机の中にあった大量の手紙の中の一通を盗み出すのでした。

手紙を読んで、たとえが美雪と付き合っているらしいと分かると、今度は美雪からたとえとの関係を聞き出そうとします。友達になりたかったと嘘をつき、美雪に近づいたあげく、とうとう彼女と肌を交えるまでになるのです。

文化祭の準備が長引いて二人きりになったとき、愛は思いきって自分の気持ちをたとえに打ち明けます。しかし返事はNO、理由は愛が「うそをついているから」だと言われます。「話していることが、うそなんじゃないかと思う」と、静かにたとえは言うのです。

図星をさされて、愛は真っ赤になります。気に入ってもらうために言葉を飾り立てて演じていたことをあっさり見抜かれ、非難するでもなく無邪気に指摘されたのです。恥ずかしさが転じて、逆に美雪との関係を非難がましく言い募る愛です。

仲良く付き合っているカップルに勝手に嫉妬して、横取りしようと告白したあげく、ふられて逆上して捨て台詞を吐く、愚劣な行為の連続。今まで散々高飛車に心の中で人に浴びせてきた批判が、自分に矢になって突き刺さるのを、愛は感じています。

手に入らない苦しみ。どうして求めるのをやめればいいのか分からない。手に入ってないときの不安を楽しむなんて、私にはできない。-助けて。私を見て。手を差しのべて。私を拾ってください。・・・愛の想いが、たとえには届きません。

愛がとった捨身の告白シーンは圧巻です。美雪の携帯を使ってたとえを夜の学校へ呼び出すのですが、教室でたとえを待つ愛は一糸まとわぬ全裸です。下着まで全て脱ぎ捨て、たとえの机に座り、鶴を折っています。愛が選んだ、素の自分を晒す、歪な表現です。

たとえは、ここで決定的な言葉を愛に浴びせます。愛は、はじめて彼の本当の言葉を聞いたと思います。それは、彼が奥底に隠し持った、冷えびえとした重苦しい声で語られたものでした。
・・・・・・・・・・
愛の行為がたとえを振り向かせるための手段で、本気で抱き合ったわけではないと知らされた美雪は、愛に対してどんな仕打ちをするのか、あるいはしないのか。たとえの、語られない奥底に秘めたものは何なのか。どんな思いを込めて「ひらいて・・」と、愛はつぶやいたのか・・・。

相変わらず、この人の卓越した文章はみごとと言うしかありません。小説の主節にありながら、微妙な幕間を狙って差し込むフレーズが印象に残ります。

例えば、体育の授業で跳び箱が上手く跳べずに、たとえが跳び箱ごと崩れ落ちそうになるシーン。何とか持ちこたえて、たとえは恥じ入った暗い表情で列に戻るのですが、この後、
「跳べないから恥ずかしいのではなく、跳べないことでさえ滞りなく済ませることができなかった自分を恥じ入るかのように。」と解説してみせてくれる人は滅多にいません。

愛の、ひとり言。
「理由なんか、どうでもいい。私たちはいつもときどき、ひどくつらい」
「正しい道を選ぶのが、正しい。でも、正しい道しか選べなければ、なぜ生きているのか分からない」

光浦さんが「感性がビンビンなんだもん」と言う気持ち、私も同感です。感じたことが正確に言葉に置き換えられていることに、毎々感動しているのです。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


ひらいて (新潮文庫)

◆綿矢 りさ
1984年京都府京都市左京区生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文科卒業。

作品 「インストール」「蹴りたい背中」「勝手にふるえてろ」「夢を与える」「かわいそうだね?」「しょうがの味は熱い」「憤死」「大地のゲーム」など

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