『かわいい結婚』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『かわいい結婚』(山内マリコ), 作家別(や行), 山内マリコ, 書評(か行)

『かわいい結婚』山内 マリコ 講談社文庫 2017年6月15日第一刷

結婚して専業主婦となった29歳のひかりだが、家事能力はゼロ。こんなに嫌いな家事が一生続くなんて・・・・ これがゴールなら、わたしは誰とも恋なんかしない! (「かわいい結婚」)。いまどき女子の本音をおしゃれに鋭く描いて大人気の著者が、結婚生活の夢とリアルをコミカル&ブラックに描く、3つの短編集。(講談社文庫)

表題作「かわいい結婚」の他に「悪夢じゃなかった? 」「お嬢さんたち気をつけて」の2編を収録。いずれの作品もこの人の小説らしく軽い感じでノリがいい。ややこしいことが書いてあるわけではないので、あっという間に読めてしまいます。然るに、ハハハと笑ってオシマイなら、それはあまりに勿体ない。

結婚するかどうかの決断を今まさに迫られているような、あなた。

いつか誰かと結婚し、それは必ずしもベストとは言えない選択かも知れないけれど、それでも相応に満足し、過不足なく暮らしてゆくのだろうと考えている、あなた。あなたにこそ読んでほしいと思う一冊です。

よくよく考えてみてください。結婚とは何ぞやと。あなたにとってそれは、その後に続く長い長い人生の、真に新たな門出となるのだろうかということについて。打算と妥協の結果導き出した、体のいい〈諦め〉ではないかという疑念について。

ちょっと真面目な話をしましょう。これは解説にある湯山玲子氏の文章です。

「地方在住で所得も社会的な地位も低い人たち」が一様に幸福度が高いというのは、いわゆるマイルドヤンキーという言葉で知られているが、本作はそのことを小説化した試みかもしれない。

マイルドヤンキー?  みなさんはこんな言葉を聞いたことがあるでしょうか。優しげな不良? ・・・・ いやいや、そんな意味ではありません。今を生きる(地方の)若者らが行き着いた、ある「処世術」のことをいいます。

マイルドヤンキーなる若者は、地元に根ざし、同年代の友人や家族との関係を基盤にした生活を送っています。一般的な若者の志向である、都市への流出、車離れ、晩婚化、少子化などと異なり、彼ら彼女らは、別の経済観念や行動様式を持つと定義されています。

仲間と同乗して車を使い、地元企業に勤め、週末は幼なじみとショッピングモールに出かける。行動エリアは半径5キロメートル以内で完結。郊外や地方都市に住み、彼らの収入は決して多いとは言えません。

ITへの関心やスキルが低く、小・中学校時代からの友人関係を続け、「できちゃった結婚」の割合が高く、子どもにキラキラネームをつける。喫煙率や飲酒率が高い - などの特徴があるといいます。(コトバンクより引用)

どうです? (正真正銘の地方人間である)私は、思い当たることが8割。いいや、そんなことはないと思う気持ちが2割。といったところでしょうか。何だか莫迦にされているようで気分はよくないものの、言われると、まさに実態はそういうことなんだと。

※「マイルドヤンキー」という概念の提唱者は博報堂の原田曜平という人物。彼は決して地方在住の若者を見下しているわけではありません。彼の思いは、まるで別のところにあります。

いずれにせよ、ここで重要なのは、地方で暮らすということは - それはとりもなおさず今を生きる多くの若者にとっては、ということですが - 何か憧れた大きなもの、なりたいと願う自分の未来にどうにか見切りをつけて行き着いた「なりゆき」なのだと思います。

時代が突きつける絶望や無力感を前に、強く反発できるだけの能力や気力を持ち合わせている人間ならそうはならないかもしれません。

そういう人はどんどん(都会へでも)どこへでも行けばいい。行って、やりたいことをやりたいようにやればいい。但し、その挙句仕事に追われ、精神を病み、おまけに思ったほどの稼ぎもないとなれば、何をか言わんや、ということにもなりかねないわけで・・・・・

この本はそんな世相を背景に書かれています。そこのところを十分に理解して読んでみてください。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆山内 マリコ
1980年富山県富山市生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「アズミ・ハルコは行方不明」「ここは退屈迎えに来て」「さみしくなったら名前を呼んで」「パリ行ったことないの」など

関連記事

『神様』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『神様』川上 弘美 中公文庫 2001年10月25日初版 なぜなんだろうと。なぜ私はこの人の小説

記事を読む

『黄色い家』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『黄色い家』川上 未映子 中央公論新社 2023年2月25日初版発行 人はなぜ、金

記事を読む

『顔に降りかかる雨/新装版』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『顔に降りかかる雨/新装版』桐野 夏生 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 親友の耀子が、曰く

記事を読む

『県民には買うものがある』(笹井都和古)_書評という名の読書感想文

『県民には買うものがある』笹井 都和古 新潮社 2019年3月20日発行 【友近氏

記事を読む

『怪物』(脚本 坂元裕二 監督 是枝裕和 著 佐野晶)_書評という名の読書感想文

『怪物』脚本 坂元裕二 監督 是枝裕和 著 佐野晶 宝島社文庫 2023年5月8日第1刷

記事を読む

『賢者の愛』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『賢者の愛』山田 詠美 中公文庫 2018年1月25日初版 高中真由子は、編集者の父と医師の母のも

記事を読む

『夏の庭 The Friends 』(湯本香樹実)_書評という名の読書感想文

『夏の庭 The Friends 』湯本 香樹実 新潮文庫 1994年2月25日発行 町外れに暮ら

記事を読む

『リアル鬼ごっこ』(山田悠介)_書評という名の読書感想文

『リアル鬼ごっこ』山田 悠介 幻冬舎文庫 2015年4月1日75版 全国500万の 〈佐藤〉 姓を

記事を読む

『神の手』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『神の手』望月 諒子 集英社文庫 2022年7月12日第8刷 『蟻の棲み家』(新潮

記事を読む

『劇場』(又吉直樹)_書評という名の読書感想文

『劇場』又吉 直樹 新潮文庫 2019年9月1日発行 高校卒業後、大阪から上京し劇

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑