『肩ごしの恋人』(唯川恵)_書評という名の読書感想文
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『肩ごしの恋人』(唯川恵), 作家別(や行), 唯川恵, 書評(か行)
『肩ごしの恋人』唯川 恵 集英社文庫 2004年10月25日第一刷
欲しいものは欲しい、結婚3回目、自称鮫科の女「るり子」。仕事も恋にものめりこめないクールな理屈や「萌」。性格も考え方も正反対だけど二人は親友同士、幼なじみの27歳。この対照的な二人が恋と友情を通してそれぞれに模索する〈幸せ〉のかたちとは - 。女の本音と日常をリアルに写して痛快。女のダンディズムを描き、圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作。(集英社文庫)
おもしろそうだったので『逢魔』という小説を読んでみました。唯川恵という人の本は初めてで、読むと予想通り - というか、とても上手な文章を書く人だというのがわかります。
『逢魔』というのはそれはそれはエロい小説なのですが、丁寧で、慌てるふうがなく、「わかった上」で書いてあるのがわかります。(名前の感じからして)最初唯川恵という作家は若い人だとばかり思っていたら意外(失礼! )に年配で、ああ、なるほどそういうことかと。
もう一冊、次は直木賞受賞作品『肩ごしの恋人』を読んでみようと思い、日を開けず書店へ行き、この本を買いました。
正直に言うと、最初読み出したときには「これが直木賞? 」と半ばあきれ返るような内容に唖然としました。小説は主人公の一人・るり子の三回目の結婚披露宴の場面から始まるのですが、設定もそうなら、そこで交わされる一々のやり取りが、あまりに軽いのです。
軽すぎて読むに堪えないのですが、そこをぐっと我慢する必要があります。(読んだ私が言うのですからどうかそれを信じて)途中で投げ出さないでください。
るり子の気ままに過ぎる言動にあきれるわ、彼女の親友でもう一人の主人公・萌の、しっかりしてそうで実はそうでもないようなキャラクターに、あなたはきっと苛ついたりすることでしょう。
青木るり子と早坂萌、二人は5歳のときからの幼なじみで、それからずっと、27歳の今日に至るまで無二の親友。二人の性格は、真反対。女の武器を駆使して憚らず、この男と決めたら早々に結婚し、しかしあっという間に離婚するのがるり子。
るり子は美人で、思う以上に男にモテます。彼女もそれをよく知っています。るり子にその気がなくても、男が放っておきません。男を選びに選び、この人と決めて結婚するにはしますが、結婚するとすぐに飽き、別の男が欲しくなります。
萌は、そんなるり子にほとほと呆れ、もはや言うべき言葉がありません。言ったところでるり子が素直に従うはずはなく、言うだけ無駄だと重々承知しています。しかし、かまうことなく頼るるり子を、萌は結局、放っておくことができません。
萌は基本まじめな女性で、まじめ故、柿崎という男を見限ることができません。柿崎からの誘いは無視するくせに、時おり自分の方から連絡を取ります。会えば食事をするかお茶を飲みますが、気分が乗ればセックスもします。柿崎には美人の妻がいます。
継母のせいで家出した崇という少年と出合い、食事をした後、仕方なく部屋に泊めることになります。18歳だとばかり思っていた崇は、実は15歳の少年で、萌はその夜、それを知らずに崇を誘い、セックスしようとします。
・・・・・・・・・
読むほどに、おもしろくなってゆきます。最初はちょっと我慢してください。段々と、唯川恵という作家の目論見が明らかになってゆきます。そして最後は「さすが直木賞! 」だと、きっと思うはずです。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆唯川 恵
1955年石川県金沢市生まれ。
金沢女子短期大学(現金沢学院短期大学)卒業。
作品 「海色の午後」「愛に似たもの」「ベター・ハーフ」「100万回の言い訳」「とける、とろける」「逢魔」他多数
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