『夏の庭 The Friends 』(湯本香樹実)_書評という名の読書感想文

『夏の庭 The Friends 』湯本 香樹実 新潮文庫 1994年2月25日発行


夏の庭―The Friends (新潮文庫)

町外れに暮らすひとりの老人をぼくらは「観察」し始めた。生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目で見るために。夏休みを迎え、ぼくらの好奇心は日ごと高まるけれど、不思議と老人は元気になっていくようだ - 。いつしか少年たちの「観察」は、老人との深い交流へと姿を変え始めていたのだが・・・・・・・。喪われ逝くものと、決して失われぬものとに触れた少年たちを描く清新な物語。(新潮文庫)

160万部を超えて売れている “大ベストセラー” であるらしい。

この小説には「あとがき」があり、そこには著者の祖父(母方のおじいちゃん)のことが書いてあります。著者が七歳の時に亡くなったおじいちゃんはとてもお酒の好きな人で、大概は酔っ払っていたといいます。

コップになみなみと注いだ日本酒を、「お水だよ」と言って飲ませようとして母から怒られたり、身のまわりには一向に頓着しない人だったので、駅までステテコ姿で買い物に行ったりしては、とにかく何でもきちんとしないと気の済まない祖母に大ヒンシュクをかったりしていたようです。

電気技師だったおじいちゃんは、黄色や赤いビニールに巻かれた電線をいっぱい持っていて、著者に対し、その電線に五円玉をたくさん通し、よくお小遣いとしてくれたそうです。

が、どちらかというと厳格な父に育てられた著者にとっては、お金をそんなふうに、まるでハワイのレイみたいにしてくれたりするのは、なんだか遊びが過ぎるみたいな気がしてちょっとこわかった - つまりは、

著者にとって母方のおじいちゃんというのは、(祖母や父、実の娘である母とも違い)どこかしら別の世界の人のようで、おじいちゃんの言う突飛な冗談に対してもどう反応していいかわからず、ちょっと近寄りがたい、そんな感じの人物だったそうです。ところが、

ある日、祖父が私の家に遊びに来ました。父が会社に行っている留守に、祖父が母に会いに来るのはしょっちゅうだったので、その日も私は、友だちのところに遊びに出てしまいました。でも、なんだか不安な気持ちにおそわれて、私はちっとも遊びに身が入らず、友だちの家を出て、走って家に帰ったのです。

祖父はちょうど帰るところでした。私は祖父の顔を見ると「帰ってはいやだ」と泣きだしました。それまでちっとも祖父になつかなかった私が、いきなりそんなふうに泣くのを見て、祖父はとまどっているようでした。

わたしは祖父と初めて手をつなぎ、バス停まで歩いて行きました。その日、祖父はお酒の匂いがしませんでした。体の具合が悪くて、もう飲めなくなっていたのです。

それから一ヶ月もたたないうちに、祖父は亡くなりました。私は、あの日バス停での祖父の、いつもとちがって黙りがちで、それでいてうれしそうな顔を思い出すと、どうしてもっと、祖父に甘えたり、祖父の話をきいたり、祖父としっかり関わっておかなかったのだろうと、ひどく後悔しました。(後略)

私には、祖父や祖母に関する記憶が一切ありません。気付いたときには、誰一人この世にはいなかったのです。なので、親父とのことを書きたいと思います。

結婚し、子どもが生まれ、30歳の半ばぐらいになったときのことです。それは突然のようにやって来ました。何があったというわけではありません。何気ない日常の、ある瞬間、それまでは考えたこともなかったのですが、

親父が死んだらどうしよう - ふとそんな思いになりました。

親父の自慢話は決まって戦争の話で、志願してなった兵隊時代のことでした。それより他に誇るものがなかったのだと思います。生真面目なだけが取り柄の田舎者で、借金が無い代わりに貯金もない。子どもの頃は、それは倹しい生活でした。

工夫をすればちょっとはマシになるだろうに、不器用に過ぎてそれもままならない。同居を始め、少しは楽になったと思う矢先に病に倒れ、大事には至らなかったものの、手足が少し不自由になりました。

二度目に倒れた時は、酷かった。それから後の2年と4ヶ月はずっと病院。最後の1年は口もきけなくなっていました。寝ているだけの親父を見ている間、いつか来る「そのとき」を考えるともなく考えてはいましたが、あの時の不安ほどのものは感じません。

思うに、あの頃の私は(もう十分大人だったにもかかわらず)まだ「子ども」みたいな心境で、私にとって親父の存在は、死ぬ間際になってようやく、年老いた「おじいちゃん」になったのだろうと。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


夏の庭―The Friends (新潮文庫)

◆湯本 香樹実
1959年東京都生まれ。
東京音楽大学音楽学部作曲学科卒業。

作品 「夜の木の下で」「西日の町」「くまとやまねこ」「ポプラの秋」「わたしのおじさん」「岸辺の旅」「春のオルガン」他

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