『はぶらし』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『はぶらし』近藤 史恵 幻冬舎文庫 2014年10月10日初版


はぶらし (幻冬舎文庫)

脚本家として順調に生活する鈴音(36歳)が、高校時代の友達・水絵に突然呼び出された。子連れの水絵は離婚し、リストラに遭ったことを打ち明け、再就職先を決めるために一週間だけ泊めてほしいと泣きつく。鈴音は戸惑いつつも承諾し、共同生活を始めるが・・・・・・・。人は相手の願いをどこまで受け入れるべきなのか? 揺れ動く心理を描いた傑作サスペンス。(幻冬舎文庫)

おもしろい。(失礼ながら)想像していたものよりかは、はるかにおもしろい。

何がそんなにおもしろいのかといえば、追い詰められた女性 = 離婚し、困窮の末に久しく会っていない高校時代の同級生に救いを求めてきたシングルマザーの水絵と、

厄介とわかりつつそれを受け入れた女性 = 世間的には恵まれた暮らしの、脚本家で独身の鈴音との間で交わされる、

毒を含んだ会話や何気ない日常のやり取り挑発と牽制 - 女対女の、空々しい褒め言葉や謙遜の裏に見え隠れするそれらの様子が、実にリアルに描かれています。

かつて同じ高校にいて、さして変わりがなかったはずの二人が、時を経て、立場も環境もまるで違う女性になっています。二人は高校時代の三年間、同じ合唱部で過ごした仲なのですが、同じクラスになったことがありません。

本当は相手のことをよくは知らないまま、二人は、いつの間にやら「友達だった」と勘違いしています。

最初、水絵は鈴音に対し(無理を頼んだために)低姿勢に過ぎるような態度を示します。しかし、そのうち段々と、それは彼女がやり慣れた「演技」ではないかと思うくらいに厚かましい様子を見せるようになっていきます。

鈴音は、(憤慨しつつも)それをどうすることもできません。鈴音は元来「お人好し」な性格で、主張すべきはするものの、結局最後は言いなりに、水絵の思う通りに事が運んで行きます。それが何度も繰り返されることになります。

わかるからこそ、鈴音の踏ん切りの悪さにいらいらします。それに乗じた水絵のどあつかましさに、開いた口が塞がりません。

「一週間だけ泊めてほしい」という水絵からの申し出は、案の定、その後二週間になり、あげく「就職が決まるまで」というふうに(無期限に)延長されていきます。

無理からの居候でありながら、時に水絵は自分の言い分を主張して譲りません。これまでの、これと決めた自分のルールは頑として押し通します。歯ブラシの使い方、風呂の残り湯を使って洗濯するという、鈴音にとっては考えられない習慣 ・・・・ 等々。

それに対し鈴音は「よくもそんなことが言えたもんだ」と思うには思うのですが、口に出しては言えません。水絵が抱える辛い状況を思うと、それは些末な事にも思え、結局のところ水絵の言い分通りに事は運んでいます。

おいおい、十年ぶりに会った友達を、どこまで助けたらいい? ・・・・・・ って、

そんなの友達でも何でもないでしょ!!

きっとあなたも、そう思うはずです。

※最後にちょっとした「救い」があります。それで水絵のしたすべてがチャラになるわけではありませんが、どうとるかはあなた次第、ということにしておきましょう。

 

この本を読んでみてください係数  85/100


はぶらし (幻冬舎文庫)

◆近藤 史恵
1969年大阪府生まれ。
大阪芸術大学文芸学科卒業。

作品 「凍える島」「サクリファイス」「カナリアは眠れない」「ねむりねずみ」「巴之丞鹿の子」「天使はモップを持って」他多数

関連記事

『本と鍵の季節』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『本と鍵の季節』米澤 穂信 集英社 2018年12月20日第一刷 本と鍵の季節 (単行本)

記事を読む

『乳と卵』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『乳と卵』川上 未映子 文春文庫 2010年9月10日第一刷 乳と卵(らん) (文春文庫)

記事を読む

『今昔百鬼拾遺 河童』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『今昔百鬼拾遺 河童』京極 夏彦 角川文庫 2019年6月15日再版 今昔百鬼拾遺 河童 (

記事を読む

『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』(香月日輪)_書評という名の読書感想文

『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』香月 日輪 講談社文庫 2008年10月15日第一刷 妖怪ア

記事を読む

『文庫版 オジいサン』(京極夏彦)_なにも起きない老後。でも、それがいい。

『文庫版 オジいサン』京極 夏彦 角川文庫 2019年12月25日初版 文庫版 オジいサン

記事を読む

『4TEEN/フォーティーン』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『4TEEN/フォーティーン』石田 衣良 新潮文庫 2005年12月1日発行 4TEEN (新

記事を読む

『僕はロボットごしの君に恋をする』(山田悠介)_幾つであろうと仕方ない。切ないものは切ない。

『僕はロボットごしの君に恋をする』山田 悠介 河出文庫 2020年4月30日初版 僕はロボッ

記事を読む

『おめでとう』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『おめでとう』川上 弘美 新潮文庫 2003年7月1日発行 おめでとう (新潮文庫)

記事を読む

『浮遊霊ブラジル』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『浮遊霊ブラジル』津村 記久子 文芸春秋 2016年10月20日第一刷 浮遊霊ブラジル

記事を読む

『後悔病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『後悔病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2017年4月11日初版 後悔病棟 (小学館文庫) 33

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『希望病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『希望病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2020年11月11日初版

『JR上野駅公園口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR上野駅公園口』柳 美里 河出文庫 2017年2月20日初版

『裏アカ』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『裏アカ』大石 圭 徳間文庫 2020年5月15日初刷 裏アカ

『鵜頭川村事件』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『鵜頭川村事件』櫛木 理宇 文春文庫 2020年11月10日第1刷

『眠れない夜は体を脱いで』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『眠れない夜は体を脱いで』彩瀬 まる 中公文庫 2020年10月25

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑