『はぶらし』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/11
『はぶらし』(近藤史恵), 作家別(か行), 書評(は行), 近藤史恵
『はぶらし』近藤 史恵 幻冬舎文庫 2014年10月10日初版
脚本家として順調に生活する鈴音(36歳)が、高校時代の友達・水絵に突然呼び出された。子連れの水絵は離婚し、リストラに遭ったことを打ち明け、再就職先を決めるために一週間だけ泊めてほしいと泣きつく。鈴音は戸惑いつつも承諾し、共同生活を始めるが・・・・・・・。人は相手の願いをどこまで受け入れるべきなのか? 揺れ動く心理を描いた傑作サスペンス。(幻冬舎文庫)
おもしろい。(失礼ながら)想像していたものよりかは、はるかにおもしろい。
何がそんなにおもしろいのかといえば、追い詰められた女性 = 離婚し、困窮の末に久しく会っていない高校時代の同級生に救いを求めてきたシングルマザーの水絵と、
厄介とわかりつつそれを受け入れた女性 = 世間的には恵まれた暮らしの、脚本家で独身の鈴音との間で交わされる、
毒を含んだ会話や何気ない日常のやり取り、挑発と牽制 - 女対女の、空々しい褒め言葉や謙遜の裏に見え隠れするそれらの様子が、実にリアルに描かれています。
かつて同じ高校にいて、さして変わりがなかったはずの二人が、時を経て、立場も環境もまるで違う女性になっています。二人は高校時代の三年間、同じ合唱部で過ごした仲なのですが、同じクラスになったことがありません。
本当は相手のことをよくは知らないまま、二人は、いつの間にやら「友達だった」と勘違いしています。
最初、水絵は鈴音に対し(無理を頼んだために)低姿勢に過ぎるような態度を示します。しかし、そのうち段々と、それは彼女がやり慣れた「演技」ではないかと思うくらいに厚かましい様子を見せるようになっていきます。
鈴音は、(憤慨しつつも)それをどうすることもできません。鈴音は元来「お人好し」な性格で、主張すべきはするものの、結局最後は言いなりに、水絵の思う通りに事が運んで行きます。それが何度も繰り返されることになります。
わかるからこそ、鈴音の踏ん切りの悪さにいらいらします。それに乗じた水絵のどあつかましさに、開いた口が塞がりません。
「一週間だけ泊めてほしい」という水絵からの申し出は、案の定、その後二週間になり、あげく「就職が決まるまで」というふうに(無期限に)延長されていきます。
無理からの居候でありながら、時に水絵は自分の言い分を主張して譲りません。これまでの、これと決めた自分のルールは頑として押し通します。歯ブラシの使い方、風呂の残り湯を使って洗濯するという、鈴音にとっては考えられない習慣 ・・・・ 等々。
それに対し鈴音は「よくもそんなことが言えたもんだ」と思うには思うのですが、口に出しては言えません。水絵が抱える辛い状況を思うと、それは些末な事にも思え、結局のところ水絵の言い分通りに事は運んでいます。
おいおい、十年ぶりに会った友達を、どこまで助けたらいい? ・・・・・・ って、
そんなの友達でも何でもないでしょ!!
きっとあなたも、そう思うはずです。
※最後にちょっとした「救い」があります。それで水絵のしたすべてがチャラになるわけではありませんが、どうとるかはあなた次第、ということにしておきましょう。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆近藤 史恵
1969年大阪府生まれ。
大阪芸術大学文芸学科卒業。
作品 「凍える島」「サクリファイス」「カナリアは眠れない」「ねむりねずみ」「巴之丞鹿の子」「天使はモップを持って」他多数
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