『ニワトリは一度だけ飛べる』(重松清)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2019/04/30
『ニワトリは一度だけ飛べる』(重松清), 作家別(さ行), 書評(な行), 重松清
『ニワトリは一度だけ飛べる』重松 清 朝日文庫 2019年3月30日第1刷
この物語は、平成の半ば頃、とある冷凍食品会社で起きた内部告発事件をめぐる、ささやかなゲリラ戦の記憶である - 。
筆者はこの物語を事件の直後、2002年から翌年にかけて、いったん週刊誌連載で発表したものの、諸般の 「事情」 があって (小説と銘打ち、戦記というよりむしろ寓話に仕立てあげたつもりでも、やはり少なからぬ関係筋を刺激することになってしまったのだ)、単行本化は見送った。
しかし、平成が終わろうとする頃になって状況が大きく変わった。事件に深く関わり、有形無形さまざまな 「事情」 を押しつけて単行本化を拒んできた関係筋の中で、最も強硬な姿勢だった人物が亡くなったのである。
幸いにして御遺族や関係各位の御理解と御厚意を賜り (深謝したい)、ここに十数年越しの再びの御目見得が叶ったことになる。
文庫という、手軽で身軽な、まさしくゲリラにふさわしい一冊に収められた、二十一世紀が始まって間もない頃の物語を、平成最後の年に (そしてもちろん、それ以降も) 愉しんでいただければ、と願っている。(重松清/物語の “プロローグ” としてある文章)
タイトルとあわせ、ここだけ読むと重松清の小説ではないような、池井戸潤が書く組織の暗部を鋭く抉る企業小説のような。そんな感じがします。
飛べないはずのニワトリが “一度だけ飛べる” とは - 例えば、会社の言いなりになり粛々と仕事に励むサラリーマンが、ある日一大決心のもとに牙を剥き、多くの犠牲を覚悟の上で、それでも組織に蔓延る不正を糾さずにはいられない - 九回裏二死からの逆転満塁ホームランのような、そんなドラマが展開されるのではないかと。
それの半分は当たり、半分は外れています。
この物語の結末は、(池井戸潤の小説ほどには) 痛快でも、爽快でもありません。というか、たとえその戦いは劇的な展開で勝利を収めたとしても、翌日にはまた次の試合があるということです。相手を変え、場所を変え、戦いはまだまだ続きます。
働くとは、人生とは。 きっと、そういうことなんだと。
事を成した後、造反に関わった主たる4人の人物は、おしなべて更なる苦難を背負うことになります。
左遷部署 「イノベーション・ルーム」 に異動となった酒井裕介のもとに 「ニワトリは一度だけ飛べる」 という題名の謎のメールが届くようになる。送り主は酒井らを 『オズの魔法使い』 の登場人物になぞらえて、何かメッセージを伝えようとしているようなのだが・・・・・・・。働くとは、人生とは。名手が贈る、笑って泣ける長編小説。(朝日文庫)
この本を読んでみてください係数 80/100
◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。
作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「また次の春へ」「ゼツメツ少年」他多数
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