『ニワトリは一度だけ飛べる』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ニワトリは一度だけ飛べる』重松 清 朝日文庫 2019年3月30日第一刷

ニワトリは一度だけ飛べる (朝日文庫)

この物語は、平成の半ば頃、とある冷凍食品会社で起きた内部告発事件をめぐる、ささやかなゲリラ戦の記憶である - 。

筆者はこの物語を事件の直後、2002年から翌年にかけて、いったん週刊誌連載で発表したものの、諸般の 「事情」 があって (小説と銘打ち、戦記というよりむしろ寓話に仕立てあげたつもりでも、やはり少なからぬ関係筋を刺激することになってしまったのだ)、単行本化は見送った。
しかし、平成が終わろうとする頃になって状況が大きく変わった。事件に深く関わり、有形無形さまざまな 「事情」 を押しつけて単行本化を拒んできた関係筋の中で、最も強硬な姿勢だった人物が亡くなったのである。
幸いにして御遺族や関係各位の御理解と御厚意を賜り (深謝したい)、ここに十数年越しの再びの御目見得が叶ったことになる。
文庫という、手軽で身軽な、まさしくゲリラにふさわしい一冊に収められた、二十一世紀が始まって間もない頃の物語を、平成最後の年に (そしてもちろん、それ以降も) 愉しんでいただければ、と願っている。(重松清/物語の “プロローグ” としてある文章)

タイトルとあわせ、ここだけ読むと重松清の小説ではないような、池井戸潤が書く組織の暗部を鋭く抉る企業小説のような。そんな感じがします。

飛べないはずのニワトリが “一度だけ飛べる” とは - 例えば、会社の言いなりになり粛々と仕事に励むサラリーマンが、ある日一大決心のもとに牙を剥き、多くの犠牲を覚悟の上で、それでも組織に蔓延る不正を糾さずにはいられない - 九回裏二死からの逆転満塁ホームランのような、そんなドラマが展開されるのではないかと。

それの半分は当たり、半分は外れています。

この物語の結末は、(池井戸潤の小説ほどには) 痛快でも、爽快でもありません。というか、たとえその戦いは劇的な展開で勝利を収めたとしても、翌日にはまた次の試合があるということです。相手を変え、場所を変え、戦いはまだまだ続きます。

働くとは、人生とは。 きっと、そういうことなんだと。

事を成した後、造反に関わった主たる4人の人物は、おしなべて更なる苦難を背負うことになります。

左遷部署 「イノベーション・ルーム」 に異動となった酒井裕介のもとに 「ニワトリは一度だけ飛べる」 という題名の謎のメールが届くようになる。送り主は酒井らを 『オズの魔法使い』 の登場人物になぞらえて、何かメッセージを伝えようとしているようなのだが・・・・・・・。働くとは、人生とは。名手が贈る、笑って泣ける長編小説。(朝日文庫)

この本を読んでみてください係数 80/100

ニワトリは一度だけ飛べる (朝日文庫)

◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。

作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「また次の春へ」「ゼツメツ少年」他多数

関連記事

『二人道成寺』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『二人道成寺』近藤 史恵 角川文庫 2018年1月25日初版 二人道成寺 (角川文庫)

記事を読む

『西の魔女が死んだ』(梨木香歩)_書評という名の読書感想文

『西の魔女が死んだ』梨木 香歩 新潮文庫 2001年8月1日初版 西の魔女が死んだ (新潮文庫

記事を読む

『♯拡散忌望』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『♯拡散忌望』最東 対地 角川ホラー文庫 2017年6月25日初版 拡散忌望 (角川ホラー文庫

記事を読む

『泥濘』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『泥濘』黒川 博行 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 泥濘 疫病神シリーズ 「待たんかい

記事を読む

『ねこまたのおばばと物の怪たち』(香月日輪)_書評という名の読書感想文

『ねこまたのおばばと物の怪たち』香月 日輪 角川文庫 2014年12月25日初版 ねこまたのお

記事を読む

『君の膵臓をたべたい』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『君の膵臓をたべたい』住野 よる 双葉社 2015年6月21日第一刷 君の膵臓をたべたい

記事を読む

『さよならドビュッシー』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『さよならドビュッシー』中山 七里 宝島社 2011年1月26日第一刷 さよならドビュッシー

記事を読む

『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫)_書評という名の読書感想文

『赤頭巾ちゃん気をつけて』庄司 薫 中公文庫 1995年11月18日初版 赤頭巾ちゃん気をつけ

記事を読む

『ラブレス』(桜木紫乃)_書評という名の感想文

『ラブレス』 桜木 紫乃  新潮文庫 2013年12月1日発行 @630  

記事を読む

『七緒のために』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『七緒のために』島本 理生 講談社文庫 2016年4月15日第一刷 七緒のために (講談社

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『よるのばけもの』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『よるのばけもの』住野 よる 双葉文庫 2019年4月14日第一刷

『ウツボカズラの甘い息』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『ウツボカズラの甘い息』柚月 裕子 幻冬舎文庫 2018年10月10

『傲慢と善良』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『傲慢と善良』辻村 深月 朝日新聞出版 2019年3月30日第一刷

『ニワトリは一度だけ飛べる』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ニワトリは一度だけ飛べる』重松 清 朝日文庫 2019年3月30日

『県民には買うものがある』(笹井都和古)_書評という名の読書感想文

『県民には買うものがある』笹井 都和古 新潮社 2019年3月20日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑