『ピンザの島』(ドリアン助川)_書評という名の読書感想文

『ピンザの島』ドリアン 助川 ポプラ文庫 2016年6月5日第一刷


ピンザの島

 

アルバイトで南の島を訪れた涼介は、「ピンザ」と呼ばれるヤギの乳でチーズをつくる夢を追い始める。だが、その挑戦は島のタブーにふれ、男衆の怒りを買ってしまう - 。敗北感にまみれたひとりの青年が、悪戦苦闘の果てに生存への突破口を見いだしていく、感動の力作長編。(ポプラ文庫より)

ふざけたペンネームの割には意外に(!?)ピュアな小説を書く人で、「僕は、読んでくれた人に何か救いになるテーマを見つけられないと、小説は書けないんです」などというコメントを読むと、なるほどこんな人がこんな話を書くのかと・・・・。

ドリアン助川という人は今のところ私にとってはそんな感じの人で、正直言ってそれ以上のことはよく知りません。たまたま読んだ『あん』がとても良かったので、これは何としても次を読まねばと思いこの本を買いました。

『あん』という小説を初めて読んだとき、私は泣くことも叶わず、それより先に胸を衝かれて只々怯んでばかりいたように思います。

とうの昔に完治しているハンセン病の元患者らに対する未だ変わらぬ偏見の理不尽さに唖然となり、残酷としか言いようのない、隠されたまま決して詳らかにはならない彼らの真実をどんなふうに受けとめたらいいのかが分からず、途方に暮れてばかりいました。

どら焼専門店「どら春」の雇われ店主・千太郎が拳を固くして慟哭する様子がたまらなく映り、どうすることもできない、しかし何かを発せずにはおけない彼の心情が分かり過ぎるくらいに分かってどうしようもありませんでした。

主人公の徳江は、多くを語ろうとしません。反り返ったまま元には戻らない指で黙々と「あん」を作る様子に、歳ほどに思われないきびきびとした姿に、彼女が生きた七十有余年のただ一度きりの晴れ舞台を見ているようでたまらなくなったのをよく覚えています。
・・・・・・・・・・
ピンザとは沖縄・宮古島の方言で、ヤギのことを言います。この小説は、自殺衝動を抱える青年(涼介)が、南の島(安布里列島に点在する島のひとつである安布里島。但し、物語上の架空の島です)で幻のチーズ作りに挑むという物語です。

著者曰く、「出生からトラウマを抱えた青年が自分の運命と闘ってゆく、というシンプルな設定」で、涼介が本土からはるか南にある孤島でヤギの乳を使って幻のチーズを作ろうとするには、過去に遡ってそれなりの訳があります。

彼の生い立ちや昔に味わった苦々しい出来事。それに関わる人や - 島にはかつて涼介の父と一緒にいて志しを同じくした、父の親友だったハシさんと呼ばれる男性がいます - 既に島にいる人々との交流や諍い。船で知り合い仲間となった若者らについて等々。

概ね、若い読者には受けが良いようです。激しく同感したというような感想もあります。一にも二にも涼介のストイックな様子と世を儚んでいるが故の真っ直ぐさが共感を呼び、感動を与えもするのでしょう。その感じは分からぬではないのですが・・・・、

ちょっばかり「あざとさ」が鼻に付くのは、私が歳を取っているからなのでしょうか。少なくとも『あん』ほどの出来には思えません。『あん』のときのような切実さが伝わってこないのです。伝えたいことは分かるのですが、たぶん話ができ過ぎていて、どこかしら上滑りしているように感じます。

これは、きっと私がオヤジだからだと思います。真正面から来られると、ちょっと気恥ずかしくなって及び腰になる。そんなことであるかも知れません。私のなかでは平均点ですが、これから読もうという(特に若い)みなさんは、全部忘れて読んでみてください。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


ピンザの島

 

◆ドリアン助川
1962年東京都生まれの神戸育ち。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒業。

作品 明川哲也の筆名で「メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか」「花鯛」など
ドリアン助川で「バカボンのパパと読む「老子」」「あん」「多摩川物語」他多数

関連記事

『ファーストクラッシュ』(山田詠美)_ 私を見て。誰より “私を” 見てほしい。

『ファーストクラッシュ』山田 詠美 文藝春秋 2019年10月30日第1刷 ファースト クラ

記事を読む

『蛇を踏む』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『蛇を踏む』川上 弘美 文芸春秋 1996年9月1日第一刷 蛇を踏む (文春文庫) ミドリ公園に

記事を読む

『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ひざまずいて足をお舐め』山田 詠美 新潮文庫 1991年11月25日発行 ひざまずいて足をお舐め

記事を読む

『百花』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『百花』川村 元気 文藝春秋 2019年5月15日第1刷 百花 「あなたは誰? 」 息

記事を読む

『桜の首飾り』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『桜の首飾り』千早 茜 実業之日本社文庫 2015年2月15日初版 桜の首飾り (実業之日本社

記事を読む

『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その2

『ブラックライダー』(その2)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行 ブラックライダー

記事を読む

『左手首』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『左手首』黒川 博行 新潮社 2002年3月15日発行 左手首 (新潮文庫)  

記事を読む

『ブータン、これでいいのだ』(御手洗瑞子)_書評という名の読書感想文

『ブータン、これでいいのだ』御手洗 瑞子 新潮文庫 2016年6月1日発行 ブータン、これでい

記事を読む

『風味絶佳』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『風味絶佳』山田 詠美 文芸春秋 2008年5月10日第一刷 風味絶佳  

記事を読む

『福袋』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『福袋』角田 光代 河出文庫 2010年12月20日初版 福袋 (河出文庫) 私たちは

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷

『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版

『希望病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『希望病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2020年11月11日初版

『JR上野駅公園口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR上野駅公園口』柳 美里 河出文庫 2017年2月20日初版

『裏アカ』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『裏アカ』大石 圭 徳間文庫 2020年5月15日初刷 裏アカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑