『また、桜の国で』(須賀しのぶ)_これが現役高校生が選んだ直木賞だ!
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『また、桜の国で』(須賀しのぶ), 作家別(さ行), 書評(ま行), 須賀しのぶ
『また、桜の国で』須賀 しのぶ 祥伝社文庫 2019年12月20日初版
1938年10月 - 。外務書記生・棚倉慎はポーランドの日本大使館に着任。ナチス・ドイツが周辺国へ侵攻の姿勢を見せ、緊張が高まる中、慎はかつて日本を経由し祖国へ帰ったポーランド孤児たちが作った極東青年会と協力、戦争回避に向け奔走する。
だが、戦争は勃発、幼き日のポーランド人との思い出を胸に抱く慎は、とある決意を固め・・・・・・・。著者渾身の大作、待望の文庫化! (祥伝社文庫)
第156回 直木賞候補作 第4回 高校生直木賞受賞作
現役高校生が読んで、一番に推した作品がどんなものかが知りたくて、読んでみようと思いました。驚きました。彼ら彼女らが抱く秘めた熱情は、こんなにも熱いのだと。
何より思い知らされたのは、如何に自分が無学であるかということです。ナチス・ドイツに侵略され、戦火に染まるワルシャワの、何一つさえ私は知りませんでした。ポーランドという国について、そこで生まれた人の歴史について、あなたは何か思いを馳せたことがあるでしょうか・・・・・・・
物語の幕開けの日付けは、いわゆる 「ミュンヘン会談 (ミュンヘン協定)」 によって戦争が回避された1938年9月30日。ヨーロッパの中央に位置し、西側がドイツ、東側がソ連という大国に挟まれたポーランドへ、27歳の棚倉慎が足を踏み入れようとしている場面から始まる。
ロシア人の父と日本人の母を持つ彼は、外見は西洋人でポーランド語も堪能。その資質を買われ、日本大使館の外務書記生として赴任することになったのだ。道中の夜行列車内で出会ったのが、国籍はポーランドだが人種的にはユダヤ人であるカメラマン、ヤン・フリードマンだった。
自分と同じようにアイデンティティの揺らぎを抱える、彼との会話がきっかけとなり、慎は日本で過ごした少年期の思い出を蘇らせる。時は第一次世界大戦終戦から二年後の1920年の夏、父がピアノで奏でていたポーランド人作曲家・ショパンの 『革命のエチュード』 の旋律に導かれ、家の庭にポーランド人の少年カミルが迷い込んだ。そこで芽生えたたった二時間の 「友情」、お互いの 「秘密」 の告白が、その後の慎の人生を決定づけた - 。
そもそも、カミルはなぜ日本にいたのか。祖国の独立運動と内乱で両親を失い、シベリアへ追いやられたポーランド人の戦災孤児たちに、日本が手を差し伸べたからだ。
このエピソードは、史実に基づいている。実は2019年の今年は、「日本・ポーランド国交樹立100周年」 のアニバーサリー・イヤーだった。在ポーランド日本大使館および関連ホームページを見てみれば、日波交流の歴史の始まりであり象徴として、シベリア孤児のエピソードが掲げられている。
しかし、ほとんどの日本人はこの史実を知らないのではないだろうか? つい 「知られざる歴史」 と口にしてしまいたくなる物事の多くは、ただ知らずにいただけなのだ。だから大事なのはやはり、知ろうとすること。想像力は、そこから始まる。(以下略/解説より)
物語は、ロシア人を父に持つ日本人青年・棚倉慎を主軸に置きながら、彼がやがて出会うことになる三人の “同士” と共に進んでいきます。
四人は、自主独立を願うポーランドにあって、劣勢極まる状況下、孤立無援の中にあっても尚諦めず、互いを信じ自らを鼓舞し、あらゆる侵略からの解放を成し遂げようとする意志を捨てようとしません。
一人は、(あの夜行列車で出会った) ユダヤ人居住区に暮らすカメラマン、ヤン・フリードマン。一人は、後に出会うアメリカ人ジャーナリストの、レイモンド・パーカー。そして、もう一人。イエジ・ストシャウコウスキは慎と同じ27歳で、ワルシャワ大学卒業後は司法省に勤めている俊才でした。かつてシベリア孤児たちのリーダーだった少年は、今や青年会を統率する立場となり、また少年審判所の視察官として孤児教育に熱心に取り組んでいるという人物でした。
それぞれ生まれも育ちも異なる中で、慎を含め四人すべての人物が、同じ願いを胸に身命を賭そうとしています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆須賀 しのぶ
1972年埼玉県生まれ。
上智大学文学部史学科卒業。
作品 「惑星童話」「神の棘」「革命前夜」「荒城に白百合ありて」他多数
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