『よるのばけもの』(住野よる)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『よるのばけもの』(住野よる), 住野よる, 作家別(さ行), 書評(や行)

『よるのばけもの』住野 よる 双葉文庫 2019年4月14日第1刷

夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて - 。大ベストセラー青春小説 『君の膵臓をたべたい』 の著者が描く、本当の自分をめぐる物語。(双葉文庫)

文庫の帯には「夜の学校で、僕はひとりぼっちの少女に出会った - 本当の君が、ここにいる」 とあります。

最初は何が始まってゆくのだろうと。

そのうち段々と、「ああ、これはよくある “いじめ” の話」 なんだと、きっとそう思うはずです。「本当の君」 とは - なぜか夜中の教室に一人ぽつんと佇む同級生の、矢野さつきのことなんだと - そう思うに違いありません。

さつきという少女は確かにいじめに遭っています。クラスの中で、明らかに孤立しています。

しかしです。よく読むと、(外見は) さつきはさほどそのことに傷ついてはいないように思えます。というか、敢えてその立場(=いじめに遭う側) に甘んじているように思えてなりません。

昼間の学校では、彼女は決して本心を晒しません。むしろ、いじめを享受しているようにさえみえます。自分が承知でそうであるのなら、少なくとも別の誰かには害が及ばないとでも言うようにして。

だからこそ、さつきにだけは - 化け物の “僕” が “僕” だとわかった - のでしょう。

いじめの物語ではなかった、と読み終わったあとに清々しく胸を衝かれる。いじめが醸成される構造も柱の一つではあるが、主ではない。必死で空気を読んでその他大勢であり続けようとする少年と真夜中の化け物、どちらが本当の彼なのか。なぜ二つに引き裂かれたのかという問いかけが痛いくらいに鮮やかだ。地雷原、と作中で書かれた思春期の教室で、化け物的な側面を持たすに生きていける子がどれだけいるだろう。(週刊文春 2017.2.9号掲載/彩瀬まるの書評から抜粋)

※実際には、なかなか矢野さつきのような少女はいないと思います。彼女のような人物よりも、むしろ化け物になってしまった主人公の “僕” に似た者の方が、何倍も、何十倍も多いはずです。

なぜなら、地雷原を避けて通るには、それが一番容易い方法だからです。但し、ただ避けて通るばかりでは、問題は何一つ解決しません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆住野 よる
1990年生まれの29歳(らしい)。大阪府在住。男性。

作品 「君の膵臓をたべたい」「また、同じ夢を見ていた」「青くて痛くて脆い」「か「」く「」し「」ご「」と「」「麦本三歩の好きなもの」等

関連記事

『きみの友だち』(重松清)_書評という名の読書感想文

『きみの友だち』重松 清 新潮文庫 2008年7月1日発行 わたしは「みんな」を信

記事を読む

『誘拐』(本田靖春)_書評という名の読書感想文

『誘拐』本田 靖春 ちくま文庫 2005年10月10日第一刷 東京オリンピックを翌年にひかえた19

記事を読む

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日 第1刷発行 孤立した無菌

記事を読む

『雪の花』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『雪の花』吉村 昭 新潮文庫 2024年12月10日 28刷 2025 1.24 FRI 全

記事を読む

『七緒のために』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『七緒のために』島本 理生 講談社文庫 2016年4月15日第一刷 転校した中学で、クラスメイ

記事を読む

『十字架』(重松清)_書評という名の読書感想文

『十字架』重松 清 講談社文庫 2012年12月14日第一刷 いじめを苦に自殺したあいつの遺書

記事を読む

『雪が降る』(藤原伊織)_書評という名の読書感想文

『雪が降る』藤原 伊織 角川文庫 2021年12月25日初版 〈没後15年記念〉 

記事を読む

『光まで5分』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『光まで5分』桜木 紫乃 光文社文庫 2021年12月20日初版1刷 北海道の東の

記事を読む

『ラブレス』(桜木紫乃)_書評という名の感想文

『ラブレス』 桜木 紫乃  新潮文庫 2013年12月1日発行 桜木紫乃は 『ホテルローヤル』

記事を読む

『夜をぶっとばせ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『夜をぶっとばせ』井上 荒野 朝日文庫 2016年5月30日第一刷 どうしたら夫と結婚せずにす

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『サリン/それぞれの証』(木村晋介)_書評という名の読書感想文

『サリン/それぞれの証』木村 晋介 角川文庫 2025年2月25日

『スナーク狩り』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『スナーク狩り』宮部 みゆき 光文社文庫プレミアム 2025年3月3

『小説 木の上の軍隊 』(平一紘)_書評という名の読書感想文

『小説 木の上の軍隊 』著 平 一紘 (脚本・監督) 原作 「木の上

『能面検事の死闘』(中山七里)_書評という名の読書感想文 

『能面検事の死闘』中山 七里 光文社文庫 2025年6月20日 初版

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(三國万里子)_書評という名の読書感想文

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』三國 万里子 新潮文庫

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑