『蝶々の纏足・風葬の教室』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『蝶々の纏足・風葬の教室』山田 詠美 新潮社 1997年3月1日発行


蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)

 

「風葬の教室」(平林たい子文学賞受賞作)

『僕は勉強ができない』、併録の『蝶々の纏足』と並び、山田詠美が描く少年少女ものの傑作。この作品には特別な思い入れがあるという人がたくさんいるのではないかと思います。中に、私にとって1番 の小説ですと言う人がいるかも知れません。

主人公は、小学5年生になる「本宮杏」という少女。父親の仕事の関係で転校を繰り返し、今回は田舎の小学校へ転入してきます。早熟で、元々が都会っ子の杏にとって、その小学校のクラスメイトは「田舎くさい」というより、むしろ「精神的に幼い」子どもに思えます。

特別に好かれるような事態はもっての外、目立たず、波風を立てずに溶け込みたいと願う杏は、最初こそ無難にクラスメイトや先生との関係を築いていきますが、やがて、彼女が放つ都会的な雰囲気は嫉妬の対象となり、それがイジメへと繋がっていきます。

杏は子供心に、自殺を考えるまでに追い詰められます。しかし、あるとき、ある人の言葉が彼女を救います。杏をイジメから解放し、彼女が確実に一歩大人の世界へと踏み出すきっかけとなったのは、同級生たちを「軽蔑する」ということでした。軽蔑し、彼らを心の中で殺し、葬り去るということだったのです。
・・・・・・・・・・
なぜこの小説が多くの人の支持を得ているのか。今もって古びず、読み継がれて、人の心を刺すように刺激的なのか。それを考えるとき、いかに幼い頃のイジメに纏わる経験が切実で、大人になっても忘れることができない忌まわしい記憶であるかがわかります。

そして、多くの大人がこの忌まわしい記憶を共有してのがわかります。たかが小学生と侮ってはなりません。彼らは小さな身体と幼い頭で、日毎自分の立ち位置をキープすることに腐心しています。まるで大人と同じで、繕わない分、大人よりもなお傷ついているのです。

杏はこんな風に思います。

私は、この人たちを嫌っていないのだから、皆、私のことも嫌いにならないといいなあ、と漠然と考えています。私は、嫌われないことが一番好きです。それが、とても楽なことだと思うからです。

そして、こうも続けます。

私は、私と同じ年齢の子たちに好かれるのが、とても面倒臭い。でも、嫌われるのはもっと嫌です。学校の生活がうまく運ばなくなりますから。学校での生活は眠る時間より長いのです。私ぐらいの年齢の子にとっては、一番、時間をかけていることが人生です。

杏にしてみれば、学校こそ人生なのです。大人のように、自分の人生を自分で決めるわけにはいきません。窮屈で、不自由で、理不尽極まりない「人生」を、それでも幼い子どもたちは必死になって生きています。その思いを、どうか汲み取ってください。「風葬の教室」というタイトルに込められた、杏の覚悟を知ってください。

小説は、随所に、幼かったあの頃を思い起こさせるようなシーンや会話、杏のつぶやきなどに溢れています。ああそうだ、私もそんな気持ちだったと思うことがいくつもあります。例えば、女性のあなた。あの頃あなたも、やっぱりこんな風だったのでしょうか。

それにしても、一緒におトイレにいくお友だちがいないというのはせつないことです。所詮、おしっこをする時は、ひとりなのだから関係ないじゃないかと言う人も中にはいるかもしれません。けれど、問題はそのことではないのです。

おトイレにいくまでの道のりなのです。ひとりでいくおトイレまでの道のりは、ものすごく遠い。すれ違う男子が、ああこれから、おしっこをするのか、と見詰めているような気がします。たかが、おしっこをするのに、つき合ってくれるお友だちがいないのかと他のクラスの人たちに思われているような気がします。(本文より)

 

◆この本を読んでみてください係数  90/100


蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)

◆山田 詠美
1959年東京都板橋区生まれ。
明治大学日本文学科中退。

作品 「僕は勉強ができない」「ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー」「ジェントルマン」「ベッドタイムアイズ」「A2Z」「風味絶佳」「学問」「放課後の音符」「熱血ポンちゃんシリーズ」他多数

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