『なぎさ』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『なぎさ』(山本文緒), 作家別(や行), 山本文緒, 書評(な行)

『なぎさ』山本 文緒 角川文庫 2016年6月25日初版発行

人生の半ば、迷い抗う大人たちを描く、著者15年ぶりの長編小説!

故郷を出て佐々井と二人、久里浜で暮らす冬乃のもとに、連絡を絶っていた妹・菫が転がり込んできた。一方、芸人に挫折し会社員となった川崎は、勤め先がブラック企業だと気付いていた。だが上司の佐々井はどこ吹く風で釣り三昧。妹の誘いでカフェを始めることになった冬乃だが、夫に言い出せずにおり - 。小さな秘密が家族と暮らしに変化をもたらしてゆく。生き惑いもがきながらも、人生を変えてゆく大人たち。傑作長篇! (角川文庫)

読んでまず感じたのは、その “世間の狭さ“ でした。悪い意味で言っているのではありません。真に人と人とが交わるのは、結局そこでしかないのだろうと。ほとんど皆がもとからの知り合いで、それぞれ相手の気性や人柄を承知しつつも、実はそれを全面的には認められないでいる。曖昧なままの日常をどうにかしたいと思いながらも、一歩前に進めずにいる。

その見本のような人物が冬乃であり、川崎でした。冬乃は一見平穏に暮らしているようですが、その実種々の悩みを抱えています。一切小言を言わない夫の佐々井に対し、かえって不安を感じているのですが、それを上手く言葉にできません。加えて、彼女はある秘密を隠しています。

もともと芸人志望だった川崎は、久しぶりの同窓会で百花と出会い、そのうち結婚を考えるようになり、結果芸人の道を諦め、美容関係の会社に就職したのでした。そこにいたのが佐々井で、二人は仕事もせずに釣り三昧の日々を過ごします。川崎には、佐々井の真意がわかりません。(川崎が勤めた会社がブラック企業だと知るのは、しばらく先のことです)

主人公の一人である冬乃は、故郷の長野県須坂市で中学生のときに知り合った一学年上の佐々井と時を経て結婚した。穏やかでシャイなところのある二人は、「あなた達結婚したらいいじゃないの」 という佐々井の母のひと言がきっかけになって、結婚することを考え、所帯を持つことになったのである。

もう一人の主人公である川崎は、恐ろしく暇な会社で就業時間だというのに、上司の佐々井に付きしたがって久里浜の海で釣りをする毎日を過ごしていた。お笑い芸人を志望し売れない若手として活動していた川崎は、久しぶりに同窓会で会った百花と付き合いはじめることになる。

そのうち、百花との結婚を考え出すようになり、芸人の道を諦めて、サロンにシャンプーなどの品物を卸す美容ディーラーの会社に就職したのだった。仕事のない会社には当然張り合いも感じず、上司の佐々井も今一つ何を考えているのかわからない。まだ二十五歳の川崎は鬱屈を抱えながら、こんな会社は辞めようと内心決意する。(解説より抜粋)

※事は、この先に起こります。菫がカフェを始めると言い出し、冬乃にもそれを手伝ってほしいと。カフェの開店には、菫の知り合いのいかにもあやしげな人物・モリが登場し、そこへ、いたたまれず会社を辞めた川崎が絡んできます。

結果、カフェの運営は、冬乃や川崎が思い描いたようにはいきません。どうしてかは、あえて書かずに置きましょう。物語はまだまだ続きます。二人の人生は、これからが本番です。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆山本 文緒
1962年神奈川県生まれ。2021年10月13日(58歳)没。
神奈川大学経済学部卒業。

作品 「恋愛中毒」「プラナリア」「アカペラ」「ブルーもしくはブルー」「パイナップルの彼方」「自転しながら公転する」「ばにらさま」「無人島のふたり」他多数

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