『猫を処方いたします。』 (石田祥)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2023/11/21
『猫を処方いたします。』 (石田祥), 作家別(あ行), 書評(な行), 石田祥
『猫を処方いたします。』 石田 祥 PHP文芸文庫 2023年8月2日 第1版第7刷
京都を舞台に人と猫の触れ合いを描く、もふもふハートフルストーリー!
「大丈夫ですよ、だいたいの悩みは猫で治りますから」
京都市中京区の薄暗い路地にある 「中京こころのびょういん」。心の不調を抱えて病院を訪れた患者に、妙にノリの軽い医者が処方するのは、薬ではなく、本物の猫!? 戸惑いながらも、猫を 「服薬」 する患者たち。気紛れで繊細、手がかかるけど愛くるしい猫と暮らすことで、彼らの心も変化していく。そして医者が猫を処方するのには、ある理由があって 。猫と人が紡ぐ、ハートフルストーリー! 文庫書き下ろし。第11回京都本大賞受賞作。(PHP文芸文庫)
家のどこかしらから現れて、近くに来ると一瞬立ち止まる。こちらの案配を確かめるように目と目が合うが、それも一瞬で、身体が自然に反応するからしているだけで、さして意味はない。遠慮らしき素振りも見せはするのだが、実は、することはとうに決めている。
胡坐をかいた私の股の間におさまると、さも当然のようにして目を閉じる。少々のことでは動きません。脱力し、軟体動物のように股に密着した身体からは、熱い体温が伝わってきます。飼った甲斐があると感じる一時ですが、いくら飼い主とはいえ何を根拠に、そこまで気を許すことができるのでしょう。
辛抱しきれず足など動かすと、「なにするねん」 とでも言うようにミャーと鳴きます。そして、寝たいだけ寝ると、(礼も言わずに) さっさとどこかへ姿を消します。
そんな猫が、あなたは好きですか?
私は、好きです。息子がもらってきた猫を、二匹飼っています。
※この物語はハートフルなだけではありません。ちょっとホラーで、ちょっと切ない。そんな内容も含まれています。いずれにせよ、猫好きには見逃せない一冊です。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆石田 祥
1975年京都府生まれ。高校卒業後、金融会社に入社し、のちに通信会社勤務の傍ら小説の執筆を始める。
作品 「トマトの先生」「ドッグカフェ・ワンノワール」シリーズ、「元カレの猫を、預かりまして。」「夜は不思議などうぶつえん」等
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