『ぼくがきみを殺すまで』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくがきみを殺すまで』あさの あつこ 朝日文庫 2021年3月30日第1刷

ベル・エイドの少年兵士エルシアは敵国ハラの兵に語りかける、かつてハラの友ファルドと過ごした色鮮やかな日々のことを。世界が戦争の影に覆われ、少年が戦場に出るまでの物語。児童文学出身の著者だからこそなし得た、少年たちの内面と友情を描く渾身の一冊。 《解説・額賀澪》 (朝日文庫)

いつの世の、どこの国であったとしても、誰が好んで戦争などしたいと思うでしょうか。ベル・エイドの少年たちは、望んで 「特別武官養成学校」 に入学したわけではありません。兵士になったのは、ならざるを得ない事情や理由があればこその決断でした。

エルシアが半ば強迫されて入学した特別武官養成学校では、12歳から16歳までの少年たちが学んでいます。武官、軍人となるために修練を積み、14歳になると特別コースが設けられ、少年たちは各々に別のコースへ進みます。

コースは、1・指導者及び戦略家の養成、2・軍事技術者、3・上級兵士の3つに分けられ、約9割の生徒が3に振り分けられます。中で1のコースは軍の最上級幹部への登竜門とされ、生徒たちの憧れでもありました。但し、誰がどのコースへ進むかはあくまで学校側による選別であり、少年たちの希望や意思は一切考慮されません。

中学生の私は、この物語を読み終えた瞬間に何を思うだろう。
2020年の年末、あさのあつこさんの 『ぼくがきみを殺すまで』 を読了し、そんなことを考えた。

この本について、中学生の自分と語らいたい衝動に駆られた。中学生の私がこの本を通して感じたことを、30歳の私は受け止めねばならないし、私は大人として彼女に何か伝えなければならない。

恐らく中学生の私は、この本の感想をすぐに言葉にはできないだろう。本を一冊読み終えた幸福感の後には必ず、胸に渦巻く感情の嵐を言葉にできない、そんなもどかしさが襲ってくる。漠然と誰かと話がしたいと思うのに、たいていそばに話し相手はいない。本を読んだことで生まれた感情を言葉にするのは、とてつもなく重労働で、大人になった現在でさえ、ときどきもどかしい。

ぼくがきみを殺すまで は、ベル・エイドとハラという、2つの架空の国の間に勃発した戦争と、それに翻弄される少年達を描いた物語である。

ベル・エイドの兵士・Lは、敵国ハラに捕えられ、牢で処刑を待つ身だ。彼は見張り役のソームという哨兵に自分の生い立ちを話して聞かせる。兵士のLではなく、エルシアという一人のベル・エイドの青年として、戦争が始まる前の穏やかな日常に思いを馳せる。

彼の生まれ故郷には、ベル・エイドとハラの子供達が共に通う学校があった。エルシアはそこで、ファルドというハラの少年と出会い、友人となり、かけがえのない日々を過ごす。

しかし、そんな日々を戦争はいとも簡単に奪っていく。日常の中にふと生まれた違和感はあっという間に増殖し、エルシアとファルドを引き裂く。学校は閉鎖され、ベル・エイドはハラをパウラ (毒蛇) と呼ぶようになる。「殺すべき相手」 というようになる。そうやって 「戦争」 が始まった。(解説 額賀澪 「薄氷の上で手を繋ごう - 「戦争」 の正体を見つめる物語」 より)

言葉が死ねば戦いが起こる

「言葉が死ねば戦いが起こる」 - ファルドは、そう言ったのでした。

ベル・エイドとハラは、いずれ戦争になる。エルシアとは敵同士になる。ファルドには先から予感があったようです。彼がエルシアの元から早々に姿を消したのは、敵国となり、戦うはずの友を守るためでした。

死んじゃだめだ。約束を違えるな」 「ぼくがきみを救うまで、待っていて、エルシア」 - そう、ファルドは言ったのでした。

戦争になり、ファルドの行方は杳として知れません。ベル・エイドの兵士となったエルシアは、敵国ハラに捕えられ、明日にも銃殺されようとしています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆あさの あつこ
1954年岡山県英田郡美作町(現:美作市)湯郷生まれ。
青山学院大学文学部卒業。

作品 「ほたる館物語」「バッテリー」「バッテリーⅡ」「たまゆら」「緋色の稜線」「藤色の記憶」「藍の夜明け」「白磁の薔薇」他多数

関連記事

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行 芥川賞作家・医師の衝撃

記事を読む

『展望塔のラプンツェル』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『展望塔のラプンツェル』宇佐美 まこと 光文社文庫 2022年11月20日初版第1刷

記事を読む

『Mの女』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『Mの女』浦賀 和宏 幻冬舎文庫 2017年10月10日初版 ミステリ作家の冴子は、友人・亜美から

記事を読む

『ぶらんこ乗り』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文

『ぶらんこ乗り』いしい しんじ 新潮文庫 2004年8月1日発行 ぶらんこが上手で、指を鳴らす

記事を読む

『ハラサキ』(野城亮)_書評という名の読書感想文

『ハラサキ』野城 亮 角川ホラー文庫 2017年10月25日初版 第24回日本ホラー小説大賞読者

記事を読む

『噂の女』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『噂の女』奥田 英朗 新潮文庫 2015年6月1日発行 糸井美幸は、噂の女 - 彼女は手練手

記事を読む

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』近藤 史恵 双葉文庫 2022年5月15日第1刷

記事を読む

『徘徊タクシー』(坂口恭平)_書評という名の読書感想文

『徘徊タクシー』坂口 恭平 新潮文庫 2017年3月1日発行 徘徊癖をもつ90歳の曾祖母が、故郷熊

記事を読む

『サブマリン』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

『サブマリン』伊坂 幸太郎 講談社文庫 2019年4月16日第1刷 『チルドレン』

記事を読む

『偏愛読書館/つかみどころのない話』(林雄司)_書評という名の読書感想文

『偏愛読書館/つかみどころのない話』林 雄司 本の話WEB 2016年5月12日配信 http:/

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『カラスは言った』(渡辺優)_書評という名の読書感想文

『カラスは言った』渡辺 優 中公文庫 2025年11月25日 初版発

『崩壊』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『崩壊』塩田 武士 PHP文芸文庫 2025年10月22日 第1版第

『禁断の中国史』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『禁断の中国史』百田 尚樹 幻冬舎文庫 2025年11月10日初版発

『嘘つきジェンガ』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『嘘つきジェンガ』辻村 深月 文春文庫 2025年11月10日 第1

『べっぴんぢごく』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『べっぴんぢごく』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2025年7月25日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑