『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『スモールワールズ』(一穂ミチ), 一穂ミチ, 作家別(あ行), 書評(さ行)

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日 第1刷発行

2022年本屋大賞第3位 第43回吉川英治文学新人賞! 共感と絶賛の声を集めた宝物のような1冊。

ままならない、けれど愛おしい小さな世界 たち。

夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人 - 書下ろし掌篇を加えた、七つの 「小さな世界」。生きてゆくなかで抱える小さな喜び、もどかしさ、苛立ち、諦めや希望を丹念に掬い集めて紡がれた物語が、読む者の心の揺らぎにも静かに寄り添ってゆく。吉川英治文学新人賞受賞、珠玉の短編集。(講談社文庫)

各篇どれもが面白い。ちょっと考えさせられたり、意表をつかれたり。上手いという他ありません。また一人、続けて読みたいと思う作家ができました。

収録作は七篇。

一篇目の 『ネオンテトラ』 の主人公は、妊娠を望みながら、浮気疑惑のある夫と表向きは円満な夫婦として日々を暮らす女性。ある日、親からの暴力と隣り合わせな環境で生きる男子中学生と出会い、彼女は彼と近所のコンビニで落ち合うようになる。

二篇目は、とある事情で前の高校をやめ、実家に戻った弟のもとに、これまたある秘密を抱えて出戻ってきた 「えらく体格のいい」 姉がともに暮らす時間を描く 『魔王の帰還』。「魔王」 とは、この姉 「真央」 のあだ名である。

三篇目の 『ピクニック』 は、母と娘とその夫、夫の両親、そして半年前に生まれたばかりの赤ちゃんとのピクニックを心待ちにする、一風変わった語りの冒頭からスタートする。生まれたばかりの孫と祖母たち、という幸せそうな彼らには、それまでどんな物語があったのか。

四篇目の 『花うた』 は、往復書簡の形式で語られるある男女の人生の話。やり取りされる手紙を通じて、彼らが過ごした長い年月が語られる。

五篇目 『愛を適量』 では、さえない教師として変わり映えのしない毎日を送る父のもとに、かつて向き合うことのないままに別れた子どもが成長して訪ねてくる物語。

そして (六篇目)、『式日』。知り合ってから今日まで、相手を尊重するあまりに大切な話に踏み込まずにきた先輩と後輩が、束の間の短い旅を通じて、初めて、そして改めて互いを見つめる一日を描く。

最後に収録された 『スモールスパークス』 は、文庫化にあたり一穂さんが書きおろした掌篇。短い中に、小さな光と長い人生の象徴的な一瞬が弾け、静かな余韻が残る一篇だ。(解説より by 辻村深月 )

※読んでほしいと思う一番は、第二篇 「魔王の帰還」。おそらく、一度読めば忘れることができません。たとえ話のほとんどを忘れたとしても、腹を抱えて笑ったこと、最後に泣いたこと、それは覚えているに違いありません。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆一穂 ミチ
1978年大阪府生まれ。
関西大学卒業。

作品 「雪よ林檎の香のごとく」「イエスかノーか半分か」「光のとこにいてね」「パラソルでパラシュート」「うたかたモザイク」「砂嵐に星屑」他多数

関連記事

『私の恋人』(上田岳弘)_書評という名の読書感想文

『私の恋人』上田 岳弘 新潮文庫 2018年2月1日発行 一人目は恐るべき正確さで

記事を読む

『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊 SAT 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊 SAT 』誉田 哲也 中公文庫 2021年2月25日 改版発行

記事を読む

『公園』(荻世いをら)_書評という名の読書感想文

『公園』荻世 いをら 河出書房新社 2006年11月30日初版 先日、丹下健太が書いた小説 『青

記事を読む

『生命式』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『生命式』村田 沙耶香 河出文庫 2022年5月20日初版発行 正常は発狂の一種 

記事を読む

『主よ、永遠の休息を』(誉田哲也)_せめても、祈らずにはいられない。

『主よ、永遠の休息を』誉田 哲也 中公文庫 2019年12月25日5刷 「名無し少

記事を読む

『少女』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『少女』湊 かなえ 双葉文庫 2012年2月19日第一刷 親友の自殺を目撃したことがあるという転校

記事を読む

『恋に焦がれて吉田の上京』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『恋に焦がれて吉田の上京』朝倉 かすみ 新潮文庫 2015年10月1日発行 札幌に住む吉田苑美

記事を読む

『ザ・ロイヤルファミリー』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ザ・ロイヤルファミリー』早見 和真 新潮文庫 2022年12月1日発行 読めば読

記事を読む

『そして、海の泡になる』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『そして、海の泡になる』葉真中 顕 朝日文庫 2023年12月30日 第1刷発行 『ロスト・

記事を読む

『宰相A』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『宰相A』田中 慎弥 新潮文庫 2017年12月1日発行 揃いの国民服に身を包む金髪碧眼の「日本人

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ついでにジェントルメン』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『ついでにジェントルメン』柚木 麻子 文春文庫 2025年1月10日

『逃亡』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『逃亡』吉村 昭 文春文庫 2023年12月15日 新装版第3刷

『対馬の海に沈む』 (窪田新之助)_書評という名の読書感想文

『対馬の海に沈む』 窪田 新之助 集英社 2024年12月10日 第

『うたかたモザイク』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『うたかたモザイク』一穂 ミチ 講談社文庫 2024年11月15日

『友が、消えた』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『友が、消えた』金城 一紀 角川書店 2024年12月16日 初版発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑