『背高泡立草』(古川真人)_草刈りくらいはやりますよ。

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『背高泡立草』(古川真人), 作家別(は行), 古川真人, 書評(さ行)

『背高泡立草』古川 真人 集英社 2020年1月30日第1刷

草は刈らねばならない。そこに埋もれているのは、納屋だけではないから。

大村奈美は、母の実家・吉川家の納屋の草刈りをするために、母、伯母、従姉妹とともに福岡から長崎の島に向かう。吉川家には 〈古か家〉 と 〈新しい方の家〉 があるが、祖母が亡くなり、いずれも空き家になっていた。奈美は二つの家に関して、伯父や祖母の姉に話を聞く。吉川家は 〈新しい方の家〉 が建っている場所で戦前は酒屋をしていたが、戦中に統制が厳しくなって廃業し、満州に行く同じ集落の者から家を買って移り住んだという。それが 〈古か家〉 だった。島にはいつの時代も、海の向こうに出ていく者や、海からやってくる者があった。江戸時代には捕鯨が盛んで蝦夷でも漁をした者がおり、戦後には故郷の朝鮮に帰ろうとして船が難破し、島の漁師に救助された人々がいた。時代が下って、カヌーに乗って鹿児島からやってきたという少年が現れたこともあった。草に埋もれた納屋を見ながら奈美は、吉川の者たちと二つの家の上に流れた時間、これから流れるだろう時間を思うのだった。〈古か家〉 の人々が生きた時間を描く、第162回芥川賞受賞作。(集英社)

古川真人の 『背高泡立草』 を読みました。

正直に言いますと、「草は刈らねばならない」 とは、如何にも大仰な - そんな感じを受けました。

大層不思議だったのは物語の冒頭、今も島にぽつんと残る、もはや無用の長物でしかない納屋の周辺の草刈りをすることについて、するのは当然だという母に対し、それが無駄に無駄を重ねるような行いに思え、あくまで (草刈りを) する理由がわからないと主張する奈美との対立です。

奈美は、わざわざ休みの日に島まで出っ張って、母や伯母や伯父が納屋の周囲の草を刈る理由が、ほんとうにわからないのでしょうか? 十分大人であるにもかかわらず、奈美には、母の気持ちが理解できないのでしょうか? 

島であろうとなかろうと、田舎で暮らす者からすれば、草刈りぐらいは普通にやるもんですよ。納屋であろうとなかろうと、それが自分の、かつて家族が暮らした場所に依るものだとしたら、その周辺をも放置してはおけない母の気懸かりになぜ思い至らないのでしょう? 

島へ行くのに、何かそれらしき事情を作りたかったのでしょう。が、そこが腑に落ちません。

※草刈りの合間合間に語られる 「昔あった島の話」 は、どれもが大変興味深く読めました。草刈りを主軸に置くのではなく、こっちをメインにすればよかったのに。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆古川 真人
1988年福岡県福岡市生まれ。
國學院大學文学部中退。

作品 2016年 「縫わんばならん」 で第48回新潮新人賞を受賞してデビュー、同作で第156回芥川賞候補に。その後、第二作 「四時過ぎの船」、第四作 「ラッコの家」 と芥川賞候補に。2020年、第五作となる本作で第162回芥川賞受賞

関連記事

『おはなしして子ちゃん』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『おはなしして子ちゃん』藤野 可織 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 理科準備室に並べられた

記事を読む

『さんかく』(千早茜)_なにが “未満” なものか!?

『さんかく』千早 茜 祥伝社 2019年11月10日初版 「おいしいね」 を分けあ

記事を読む

『最後の命』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『最後の命』中村 文則 講談社文庫 2010年7月15日第一刷 中村文則の小説はミステリーとして

記事を読む

『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』(日向奈くらら)_書評という名の読書感想文

『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』日向奈 くらら 角川ホラー文庫 2017年11月25

記事を読む

『ツ、イ、ラ、ク』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ツ、イ、ラ、ク』姫野 カオルコ 角川文庫 2007年2月25日初版 地方。小さな町。閉鎖的なあの

記事を読む

『脊梁山脈』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『脊梁山脈』乙川 優三郎 新潮文庫 2016年1月1日発行 上海留学中に応召し、日本へ復員する

記事を読む

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日 3刷 互いの痛みがわたし

記事を読む

『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』滝口 悠生 新潮文庫 2018年4月1日発行 東北へのバ

記事を読む

『JK』(松岡圭祐)_書評という名の読書感想文

『JK』松岡 圭祐 角川文庫 2022年5月25日初版 読書メーター(文庫部門/週

記事を読む

『静かに、ねぇ、静かに』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『静かに、ねぇ、静かに』本谷 有希子 講談社 2018年8月21日第一刷 芥川賞受賞から2年、本谷

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑