『涙のような雨が降る』(赤川次郎)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『涙のような雨が降る』(赤川次郎), 作家別(あ行), 書評(な行), 赤川次郎
『涙のような雨が降る』赤川 次郎 双葉文庫 2018年4月15日第一刷
少年院を出たその日から、私は風祭家の令嬢・川中歩美の身代わりとなった。何不自由ない生活ではあるものの、逆に不安が募り・・・・・・・。私は、何も知らされてはいない。本物の歩美はどこにいるのか? なぜ私が選ばれたのだろうか。- 陰謀が渦巻く中、真相をつきとめようと試みた私を待ち受けていたのは、大人たちの理論が支配する哀しい社会の現実だった。
十五歳ながら経歴はワケありの尾崎由美は、大企業グループトップ・風祭信代の孫・歩美の身代わりとなった。信代やその周りは歩美と会ったことがないため、由実はすんなり迎え入れられる。慣れない “お嬢様生活” に苦戦する由美だったが、正体を暴こうとする者が動き出し・・・・・・・。歩美の存在が消された理由、由美の周りで次々と起こる事件の真相は - 大人でも子供でもない、冷静だけど果敢な少女を待ち受けていた運命は!? 予想のつかないノンストップサスペンス。(双葉文庫)
彼女は十五歳にしては大人びた少女で、勉強は出来ないものの、それはそれまでその環境になかったからのことです。それよりもむしろ、彼女は生きる上での多くの「方便」を学んでいます。冷静にして沈着。大人以上に、機微に通じています。
作中、彼女はこんなことを思います。
- 組織。 組織という「王様」が、みんなを従えているのだ。「組織」なんて名前の人間がいるわけじゃないのに、その組織を作っているのは、一人一人の人間なのに、一旦「組織」という怪物が誕生すると、それは独り立ちして、大きな力を持ってしまうのである。
だから、「組織のため」と言われると誰も反対できなくなってしまう。何かの目的があって組織が作られるはずなのに、いつの間にか、「組織を守ること」が第一の目的になってしまうのだ。(P192)
大人になると否応なく誰もが知ることになる、そんな現実。それがために多くの人間がダメになり、行き場を失くし、上手く生きられなくなったりもします。口を閉ざし、言いたいことを言わなくなってしまうのは、それでも生きていかねばならないからです。
なるべくなら、そんなことを知るのは、遅ければ遅い方がいい。なのに。
「歩美」となった少女は、それを由美の頃から知っています。知っているからこそ、「歩美」のままではいられないのでした。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆赤川 次郎
1948年福岡県生まれ。
桐朋高等学校卒業。
作品 「幽霊列車」「三毛猫ホームズ」シリーズ、「天使と悪魔」シリーズ、「鼠」シリーズ、「ふたり」「雨の夜、夜行列車に」「怪談人恋坂」「記念写真」他多数
関連記事
-
『ふじこさん』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文
『ふじこさん』大島 真寿美 講談社文庫 2019年2月15日第1刷 離婚寸前の両親
-
『夏の騎士』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文
『夏の騎士』百田 尚樹 新潮社 2019年7月20日発行 勇気 - それは人生を切
-
『琥珀のまたたき』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『琥珀のまたたき』小川 洋子 講談社文庫 2018年12月14日第一刷 もう二度と
-
『愛すること、理解すること、愛されること』(李龍徳)_書評という名の読書感想文
『愛すること、理解すること、愛されること』李 龍徳 河出書房新社 2018年8月30日初版 謎の死
-
『きみはだれかのどうでもいい人』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文
『きみはだれかのどうでもいい人』伊藤 朱里 小学館文庫 2021年9月12日初版
-
『にらみ』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文
『にらみ』長岡 弘樹 光文社文庫 2021年1月20日初版 窃盗の常習犯・保原尚道
-
『死にたくなったら電話して』(李龍徳/イ・ヨンドク)_書評という名の読書感想文
『死にたくなったら電話して』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2014年11月30日初版
-
『ミーナの行進』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『ミーナの行進』小川 洋子 中公文庫 2018年11月30日6刷発行 美しくて、か
-
『汚れた手をそこで拭かない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文
『汚れた手をそこで拭かない』芦沢 央 文春文庫 2023年11月10日 第1刷 話題沸騰の
-
『夜の側に立つ』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文
『夜の側に立つ』小野寺 史宜 新潮文庫 2021年6月1日発行 恋、喪失、秘密。高