『オロロ畑でつかまえて』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2017/10/10 『オロロ畑でつかまえて』(荻原浩), 作家別(あ行), 書評(あ行), 荻原浩

『オロロ畑でつかまえて』 荻原 浩 集英社 1998年1月10日第一刷


オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)

 

萩原浩が好きである。

 

萩原浩の代表作と言えば、映画化された『明日の記憶』と紹介されることが多いと思います。俳優の渡辺謙が自ら映画化を懇願したという、とっておきのエピソードも加わって評判を呼んだ映画の原作ですから当然かも知れません。

しかし、私は『明日の記憶』のようなシリアスな小説よりも、むしろペーソスとユーモアに富んだ軽妙な小説こそが荻原浩の真骨頂だと思っています。

この小説は荻原浩のデビュー作です。内容はキテレツで、とてもこの世のものとは思えませんが、作品の底流にある暖かく肯定的に人を見つめるまなざし、ユーモアとジョークで苦境をも好転させてしまうポジティブシンキングは、これから後に「笑いあり涙あり」の痛快ユーモア小説の名作を数々世に送り出すことになります。

まぁ、読んでみてください。

面白くて何度も吹き出しますよ、きっと。

・・・・・・・・・・・

人口わずか三百人。超過疎化にあえぐ日本の秘境・牛穴村の青年会は村おこしに立ち上がります。仕事を依頼するために青年会メンバーの慎一と悟が、慎一の学生時代の知り合いを訪ねて東京の広告代理店へでかけるのですが、いきなりこれが爆笑ものです。お好みはあるでしょうが、私はここオススメしておきます。

結局めぼしい代理店では引受けてもらえず、たどり着いたのが今にも倒産しそうなユニバーサル広告社でした。

この最弱タッグによる村おこしのプロジェクトが、もう馬鹿馬鹿しすぎるのです。

 

「ウシアナザウルス、出現」牛穴村の龍神沼に太古の恐竜が甦る...苦し紛れに出した石井(ユニバーサル社長)のアイデアをクリエイティブディレクターの杉山が無理やり具体化した滑稽極まりない計画に、さすがに青年会の連中もすぐには同意しかねるのですが、最後には「杉山の流れるような東京弁」のプレゼンに押し切られてしまいます。

ドタバタ騒動はこうして幕を開けるのですが、青年会のメンバーはあくまで真剣です。皆純朴で、牛穴村に抱く彼等の愛着を簡単に笑い飛ばすことはできません。

はなから聞き取れないような方言が行き交い、知ったかぶりと極論の応酬のなか話は進んでいくのですが、作者は決して村の人々を見下したり茶化したりなどしていません。むしろ都会の暮らしで忘れた素朴で裏表のない彼等の言動にこっそりと拍手を送っているのです。

 

さて、プロジェクトはこの後どうなっていくのでしょうか? おそらく皆さんの期待通り(?)で、ウシアナザウルスは悲惨な末路を辿ります。

しかし、この小説が伝えたいのはウシアナザウルスプロジェクトの成否ではなく、失敗の後に訪れた牛穴村再生への本来の確かな手応えなのです。

弱小広告代理店の社長・石井の憎めない小者ぶりにクスリと笑う。杉山の家庭内事情にホロリとくる。牛穴村騒動の幕間を埋めるように「都会の現実」もバランスよく織り込まれて、気

持ちよく読める一冊です。

 

●牛穴村・・・奥羽山脈の一角、日本の最後の秘境といわれる大牛山(2238メートル)の山麓に、サルノコシカケのようにはりついた寒村。東京の6分の1に及ぶ面積を持つが、人口はわず

か300人。主な産物は、カンピョウ、人参、オロロ豆、ヘラチョンペ。民芸品としてゴゼワラシ(現在は生産されていない)などがあるという。(作中より、一部略)

<オロロ豆、ヘラチョンペにゴゼワラシ?..っなもん、あるわけないぞ!>(私)

●各章のタイトルに添えられた説明文、ちょっと面白いですよ。広告業界をよく知る作家の軽いジョークに笑えます。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)

◆荻原 浩

1956年埼玉県大宮市生まれ。

成城大学経済学部卒業。広告制作会社、コピーライターを経て、1997年小説家デビュー。

作品 「コールドゲーム」「明日の記憶」「お母様のロシアのスープ」「あの日にドライブ」「四度目の氷河期」「愛しの座敷わらし」「砂の王国」「月の上の観覧車」他多数

関連記事

『ロコモーション』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『ロコモーション』朝倉 かすみ 光文社文庫 2012年1月20日第一刷 ロコモーション (光文

記事を読む

『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『朝が来るまでそばにいる』彩瀬 まる 新潮文庫 2019年9月1日発行 朝が来るまでそばにい

記事を読む

『終わりなき夜に生れつく』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『終わりなき夜に生れつく』恩田 陸 文春文庫 2020年1月10日第1刷 終りなき夜に生れつ

記事を読む

『変な家』(雨穴)_書評という名の読書感想文

『変な家』雨穴 飛鳥新社 2021年9月10日第8刷発行 変な家 あなたは、この間取り

記事を読む

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李 龍徳 河出書房 2022年3月20日初版 日本

記事を読む

『密やかな結晶 新装版』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『密やかな結晶 新装版』小川 洋子 講談社文庫 2020年12月15日第1刷 密やかな結晶 

記事を読む

『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『きれいなほうと呼ばれたい』大石 圭 徳間文庫 2015年6月15日初刷 きれいなほうと呼ばれ

記事を読む

『アンダーリポート/ブルー』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『アンダーリポート/ブルー』佐藤 正午 小学館文庫 2015年9月13日初版 アンダーリポート

記事を読む

『愚者の毒』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『愚者の毒』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2017年9月10日第4刷 愚者の毒 (祥伝社文庫)

記事を読む

『飼い喰い/三匹の豚とわたし』(内澤旬子)_書評という名の読書感想文

『飼い喰い/三匹の豚とわたし』内澤 旬子 角川文庫 2021年2月25日初版 飼い喰い 三匹

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あなたの本/Your Story 新装版』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『あなたの本/Your Story 新装版』誉田 哲也 中公文庫 2

『プリズム』(貫井徳郎)_書評という名の読書感想文

『プリズム』貫井 徳郎 実業之日本社文庫 2022年8月9日初版第2

『自転しながら公転する』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『自転しながら公転する』山本 文緒 新潮文庫 2022年11月1日発

『呪い人形』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『呪い人形』望月 諒子 集英社文庫 2022年12月25日第1刷

『騒がしい楽園』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『騒がしい楽園』中山 七里 朝日文庫 2022年12月30日第1刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑