『百舌の叫ぶ夜』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/14
『百舌の叫ぶ夜』(逢坂剛), 作家別(あ行), 書評(ま行), 逢坂剛
『百舌の叫ぶ夜』 逢坂 剛 集英社 1986年2月25日第一刷
「百舌シリーズ」第一作。(テレビドラマ「MOZU」の原作)
実に今から28年も前のものです。私の手元にあるのは、初版の翌年2月に発行された第八刷のもの。えらく衝撃的な出会いで、書き出しの数行を読み、すぐにレジに並んだのが昨日のことのようです。
殺戮の本能を持ち速贄(はやにえ)の儀式に酔う魔性の鳥 - それが「百舌」。寡黙でクールな公安刑事・倉木尚武との相性は他の追随を許しません。不気味で残虐、繰り広げられる死闘の連続に読む手が止まりません。
物語は重層して進行しますので後を追うのが少ししんどいかも知れません。時系列をしっかり頭に入れて読む必要があります。明星美希、新谷和彦、倉木尚武、そしてもう一人、捜査一課警部補として事件に絡む大杉良太がこの物語の主要な人物です。
警視庁公安部公安第3課巡査部長・明星美希が密かに暴力団系豊明興業の殺人請負人・新谷和彦を尾行している目の前でその爆発は起きました。フリーライターの筧俊三が持っていたボストンバッグの中で小型爆弾が暴発したものでした。
この時、美希はそうとは知らず新谷を尾行していたのですが、実は彼は豊明興業から筧を殺す仕事を請け負っており、機会を窺っていたのでした。爆発による死者は2名。一人は筧、あとの一人は近くにいた主婦だったのですが、それが公安特務第一課・倉木尚武の妻、珠枝であることが判明します。
東京新宿で発生した爆発事件は、近々来日する南米のある国の大統領暗殺を暗示するものでした。新谷は標的の爆死で仕事を果たすのですが、その後豊明興業の手によって能登半島で崖から突き落とされ殺されそうになります。
一方、倉木は妻の珠枝の死が腑に落ちず、上層部の制止を無視して独自に調査を開始します。捜査一課の大杉良太は、爆発事件の捜査をするなかで、警察内部に陰謀の匂いを嗅ぎつけます。
明星美希は、直属の課長を飛び越えて警視正の津城からの特命である捜査を続けています。倉木と大杉は、美希が表に出ない何かを隠していることに気付き、それを問い詰めます。大統領訪日用に作成された警備計画書とある写真の争奪戦の果てに、ある時、倉木の前に百舌が姿を現します。
公安警察の大いなる野望とは? 百舌の正体とその屈折した過去とは・・・・・・・?
※爆発事件が物語の契機に違いないのですが、ストレートに話は進みません。行きつ戻りつを繰り返します。語る視点や人物が次々と変化するので戸惑わないようにしてください。分かりにくいという批判もありますが、それだけ内容が濃く真相に辿り着くための手順が不可欠だということ。シリーズの最初の作品で、これで諦めたら如何にももったいない。ぜひ、読み切ってください。
この本を読んでみてください係数 95/100
◆逢坂 剛
1943年東京都文京区生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。卒業後は、博報堂に勤務しながら執筆活動。約17年後に退職、専業作家となる。
サビーカスのフラメンコギターのレコードを聴いて衝撃を受け、後にスペインに興味を持つようになる。スペインを題材にした小説も数多い。
作品 「カディスの赤い星」「屠殺者よグラナダに死ね」「百舌シリーズ」「岡坂伸策シリーズ」「御茶ノ水警察署シリーズ」「イベリアシリーズ」「禿鷹シリーズ」他多数
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