『まともな家の子供はいない』津村記久子_書評という名の読書感想文

『まともな家の子供はいない』 津村 記久子 筑摩書房 2011年8月10日初版


まともな家の子供はいない

 

津村記久子が好きである。

 

小柄で、身に着けているものはどちらかというと派手さを好まない。

ファッションを無視しているわけではないが、必要以上の興味はないし、他人から必要以上に拘っている人だとは死んでも思われたくない。

色気はなく愛想が良いとも言えないけれど、嫌いになったりするくらい頑なではない。勝気もそこそこの、何処にでもいそうな、名もなき女性の代表。

この小説の主人公セキコが成長して大人の女性になったときの、私の勝手なイメージです。そして、それが津村記久子という人のイメージに重なります。

私にとり津村記久子という人は、とにかく普通っぽくて、隣にいたら気楽に話しかけられるような人物なのです。

こんな風に感じられる小説家はこの人くらいで、他の人にはない親近感を密かに抱いています。

大学が京都の、私もよく知っている学校の学生だったことがその理由のひとつかも知れません。京都の北、大学近くの烏丸北大路あたりをふらりと歩いている学生の彼女をつい想像してしまうのです。

 

『まともな家の子供はいない』のセキコは、中学時代の津村記久子と等身大の女の子です。

物語の内容はどうあれ、セキコは彼女以外には考えられません。

かなりニヒルで、ここぞという時にはしっかりとものが言える、それなりにマセた女子中学生です。

高校受験が間近に迫り、憂鬱で窒息しそうなセキコの日々。セキコには学業以外にも家族のことで切なる悩みがありました。

逃れることができない、鬱陶しくまともでない家、その家(家族)と子供はどう折り合いをつけていくのかがこの小説のテーマになっています。

セキコの家は、まともではありません。

少なくともセキコには父親も母親も理解不能で、内なるストレスは増すばかりです。

父親は祖父から引き継いだ設計事務所を9年で廃業してしまい、その後転職を繰り返し現在は休職中=無職で、毎日家にいて娘の部屋でゲームに熱中しています。

どこまでも無為な父親と一緒に家にいることに耐えられず、セキコは開館から閉館まで図書館へ逃げ込むような夏休みを過ごしています。

私立高校への進学を望むセキコでしたが、家計を心配して進学を断念しようと考えています。

母親にそのことを話すと「そんなことは子供が心配しなくていい」と言うだけです。

しかし、その経済的な裏付けがセキコにはおよそ見当がつかず、そのことで決して父親を責めようとはしない母親の態度が腹立たしくて、理解もできないのです。

同じ学習塾に通う同級生達の家族模様も少しづつ明らかになっていきます。

セキコの女友達ナガヨシの家も、まともではありません。同じ教室の男子、大和田とクレ。別の中学から塾に通う優等生の室田いつみ。

彼らの家もそれぞれに、まともではなかったのです。

 

この本を読んでみてください係数 85/100

 


まともな家の子供はいない
◆津村 記久子

1978年大阪府大阪市生まれ。

大谷大学文学部国際文化学科卒業。

9歳の時に両親が離婚。初めての就職先では上司のパワハラを苦にして9ケ月で退職した経験がある。

作品 「君は永遠にそいつらより若い」「カソウスキの行方」「ミュージック・ブレス・ユー!!」「アレグリアとは仕事はできない」「ポトスライムの舟」「とにかくうちに帰ります」
「ダメをみがく”女子”の呪いを解く方法」「これからお祈りにいきます」など

関連記事

『徴産制 (ちょうさんせい)』(田中兆子)_書評という名の読書感想文

『徴産制 (ちょうさんせい)』田中 兆子 新潮文庫 2021年12月1日発行 徴産制 (新潮

記事を読む

『青色讃歌』(丹下健太)_書評という名の読書感想文

『青色讃歌』丹下 健太 河出書房新社 2007年11月30日初版 青色讃歌  

記事を読む

『小説 ドラマ恐怖新聞』(原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭)_書評という名の読書感想文

『小説 ドラマ恐怖新聞』原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭

記事を読む

『芽むしり仔撃ち』(大江健三郎)_書評という名の読書感想文

『芽むしり仔撃ち』大江 健三郎 新潮文庫 2022年11月15日52刷 ノーベル文

記事を読む

『実験』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『実験』田中 慎弥 新潮文庫 2013年2月1日発行 実験 (新潮文庫)  

記事を読む

『虫娘』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『虫娘』井上 荒野 小学館文庫 2017年2月12日初版 虫娘 (小学館文庫) 四月の雪の日

記事を読む

『グランドシャトー』(高殿円)_書評という名の読書感想文

『グランドシャトー』高殿 円 文春文庫 2023年7月25日第2刷 Osaka B

記事を読む

『完全犯罪の恋』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『完全犯罪の恋』田中 慎弥 講談社 2020年10月26日第1刷 完全犯罪の恋 「人は

記事を読む

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』村田 沙耶香 角川文庫 2023年2月25日初版発行

記事を読む

『満月と近鉄』(前野ひろみち)_書評という名の読書感想文

『満月と近鉄』前野 ひろみち 角川文庫 2020年5月25日初版 満月と近鉄 (角川文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『汚れた手をそこで拭かない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『汚れた手をそこで拭かない』芦沢 央 文春文庫 2023年11月10

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版

『猫を処方いたします。』 (石田祥)_書評という名の読書感想文

『猫を処方いたします。』 石田 祥 PHP文芸文庫 2023年8月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑