『真夜中のメンター/死を忘れるなかれ』(北川恵海)_書評という名の読書感想文

『真夜中のメンター/死を忘れるなかれ』北川 恵海 実業之日本社文庫 2021年10月15日初版第1刷発行

すべての悩める人に送る、人生応援ストーリー! 勇気がわく! 元気が出る!!

彼の肩書はメンター」 その仕事は、話を聞くこと
昔、音楽喫茶だった場所に、アダムソンの事務所兼自宅がある。彼はカウンセラーでも精神科医でもなくメンター。話を聞き、受け止め、時にアドバイスをする。自殺志願少年、足を引っ張りたい女、闇を抱えた刃物男など個性的な客の相談に、助手のワタソンとともに解決に乗り出すが・・・・・・・。ベストセラー 『ちょっと今から仕事やめてくる』 著者の感動作! (実業之日本社文庫)

目次
File1 自殺志願少年
File2 足を引っ張りたい女
File3 ワタソン、風をひく
File4 刃物男
File5 完璧な自殺
File6 はじめまして、メンターです

この物語の主たる登場人物の一人であるアダムソンは、メンターとして 「話を聞くこと」 を仕事にしています。※メンターは 「助言者」 や 「相談者」 を意味します。

廃墟のような雑居ビルの二階の、前は音楽喫茶だった場所を改造し、この物語のもう一人の主たる登場人物であるワタソン (言い間違えそうですが 「ワトソン」 ではありません) を助手に、日々やって来る相談者に対し、二人して最大級の誠意をもって対処しています。

音楽喫茶のときと同じに、今も事務所は “メメントモリ” (死を忘れるなかれ) と名付けられています。

さて、今回の相談者はといいますと、

まず最初。一人目は、自殺志願の少年です。高校生である少年はアダムソンに対し、「なぜ、自殺してはいけないのか」 と訊ねます。

何としても死にたいという少年に、アダムソンは 「面倒くさいことをやめてみれば、案外生きることは面倒くさくなくなるかもしれません」 とアドバイスします。「私は、そうやって惰性で生きています」 と。

二人目が、なりたい顔ランキング上位常連の人気俳優に似た職場の同僚 (もちろん女性) に激しく嫉妬する女性です。

仕事は飄々とこなし、さほど頑張っているようには見えないのに、常に成績はトップクラス。美人故、男性社員からのサポートも手厚く、「一人だけずるいよね」 ってみんな言ってましたと。悔しくて、羨ましくて、何としても足を引っ張らずにはいられません。

そして最後の三人目。切りつければ相手は痛みを覚え、目には見えない血を流し、人を殺めることさえできる 「言葉」 という立派なナイフを持ちながら、それに気付きもせずに、結果、妻から三下り半を突きつけられた憐れな男の話を、どうか聞いてやってください。

コロナ禍、彼の人生は転げるように落下していきます。

※事務所には素晴らしい音響設備があり、決まってベートーヴェンのピアノソナタ第八番 「悲愴」 第二楽章が流れています。この曲が流れる時、アダムソンは 「メンター」 となります。

アダムソン、ワタソンというのは、共に本名ではありません。二人は男性で、歴とした日本人です。アダムソンの本名はわかりません。ワタソンは、本名を 「渡邊ソナタ」 といいます。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆北川 恵海
1981年大阪府吹田市生まれ。

作品「ちょっと今から仕事やめてくる」「ヒーローズ(株)!!! 」「続・ヒーローズ(株)!!! 」「星の降る家のローレン」「ちょっと今から人生かえてくる」など

関連記事

『無理』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『無理』奥田 英朗 文芸春秋 2009年9月30日第一刷 〈ゆめの市〉は、「湯田」「目方」「

記事を読む

『白砂』(鏑木蓮)_書評という名の読書感想文

『白砂』鏑木 蓮 双葉文庫 2013年6月16日第一刷 苦労して働きながら予備校に通う、二十歳の高

記事を読む

『FLY,DADDY,FLY』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『FLY,DADDY,FLY』金城 一紀 講談社 2003年1月31日第一刷 知ってる人は知

記事を読む

『八日目の蝉』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『八日目の蝉』角田 光代 中央公論新社 2007年3月25日初版 この小説は、不倫相手の夫婦

記事を読む

『嫌な女』(桂望実)_書評という名の読書感想文

『嫌な女』桂 望実 光文社文庫 2013年8月5日6刷 初対面の相手でも、たちまち

記事を読む

『二度のお別れ』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『二度のお別れ』黒川 博行 創元推理文庫 2003年9月26日初版 銀行襲撃は壮大なスケールの

記事を読む

『悪の血』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『悪の血』草凪 優 祥伝社文庫 2020年4月20日初版 和翔は十三歳の時に母親を

記事を読む

『空中庭園』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『空中庭園』角田 光代 文春文庫 2005年7月10日第一刷 郊外のダンチで暮らす京橋家のモッ

記事を読む

『夜の公園』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『夜の公園』川上 弘美 中公文庫 2017年4月30日再版発行 「申し分のない」

記事を読む

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』村田 沙耶香 角川文庫 2023年2月25日初版発行

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑