『真夜中のメンター/死を忘れるなかれ』(北川恵海)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/07
『真夜中のメンター/死を忘れるなかれ』(北川恵海), 作家別(か行), 北川恵海, 書評(ま行)
『真夜中のメンター/死を忘れるなかれ』北川 恵海 実業之日本社文庫 2021年10月15日初版第1刷発行
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/01/71U5qhLdtxL._AC_UL320_-1.jpg)
すべての悩める人に送る、人生応援ストーリー! 勇気がわく! 元気が出る!!
彼の肩書は 「メンター」 その仕事は、話を聞くこと
昔、音楽喫茶だった場所に、アダムソンの事務所兼自宅がある。彼はカウンセラーでも精神科医でもなくメンター。話を聞き、受け止め、時にアドバイスをする。自殺志願少年、足を引っ張りたい女、闇を抱えた刃物男など個性的な客の相談に、助手のワタソンとともに解決に乗り出すが・・・・・・・。ベストセラー 『ちょっと今から仕事やめてくる』 著者の感動作! (実業之日本社文庫)
目次
File1 自殺志願少年
File2 足を引っ張りたい女
File3 ワタソン、風をひく
File4 刃物男
File5 完璧な自殺
File6 はじめまして、メンターです
この物語の主たる登場人物の一人であるアダムソンは、メンターとして 「話を聞くこと」 を仕事にしています。※メンターは 「助言者」 や 「相談者」 を意味します。
廃墟のような雑居ビルの二階の、前は音楽喫茶だった場所を改造し、この物語のもう一人の主たる登場人物であるワタソン (言い間違えそうですが 「ワトソン」 ではありません) を助手に、日々やって来る相談者に対し、二人して最大級の誠意をもって対処しています。
音楽喫茶のときと同じに、今も事務所は “メメントモリ” (死を忘れるなかれ) と名付けられています。
さて、今回の相談者はといいますと、
まず最初。一人目は、自殺志願の少年です。高校生である少年はアダムソンに対し、「なぜ、自殺してはいけないのか」 と訊ねます。
何としても死にたいという少年に、アダムソンは 「面倒くさいことをやめてみれば、案外生きることは面倒くさくなくなるかもしれません」 とアドバイスします。「私は、そうやって惰性で生きています」 と。
二人目が、なりたい顔ランキング上位常連の人気俳優に似た職場の同僚 (もちろん女性) に激しく嫉妬する女性です。
仕事は飄々とこなし、さほど頑張っているようには見えないのに、常に成績はトップクラス。美人故、男性社員からのサポートも手厚く、「一人だけずるいよね」 ってみんな言ってましたと。悔しくて、羨ましくて、何としても足を引っ張らずにはいられません。
そして最後の三人目。切りつければ相手は痛みを覚え、目には見えない血を流し、人を殺めることさえできる 「言葉」 という立派なナイフを持ちながら、それに気付きもせずに、結果、妻から三下り半を突きつけられた憐れな男の話を、どうか聞いてやってください。
コロナ禍、彼の人生は転げるように落下していきます。
※事務所には素晴らしい音響設備があり、決まってベートーヴェンのピアノソナタ第八番 「悲愴」 第二楽章が流れています。この曲が流れる時、アダムソンは 「メンター」 となります。
アダムソン、ワタソンというのは、共に本名ではありません。二人は男性で、歴とした日本人です。アダムソンの本名はわかりません。ワタソンは、本名を 「渡邊ソナタ」 といいます。
この本を読んでみてください係数 80/100
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/01/71U5qhLdtxL._AC_UL320_.jpg)
◆北川 恵海
1981年大阪府吹田市生まれ。
作品「ちょっと今から仕事やめてくる」「ヒーローズ(株)!!! 」「続・ヒーローズ(株)!!! 」「星の降る家のローレン」「ちょっと今から人生かえてくる」など
関連記事
-
-
『夜また夜の深い夜』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『夜また夜の深い夜』桐野 夏生 幻冬舎 2014年10月10日第一刷 桐野夏生の新刊。帯には
-
-
『ざらざら』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『ざらざら』川上 弘美 新潮文庫 2011年3月1日発行 風の吹くまま旅をしよう、と和史が言
-
-
『愛の夢とか』(川上未映子)_書評という名の読書感想文
『愛の夢とか』川上 未映子 講談社文庫 2016年4月15日第一刷 あのとき、ふたりが世界のす
-
-
『ちょっと今から人生かえてくる』(北川恵海)_書評という名の読書感想文
『ちょっと今から人生かえてくる』北川 恵海 メディアワークス文庫 2019年7月25日初版
-
-
『幻の翼』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
『幻の翼』逢坂 剛 集英社 1988年5月25日第一刷 『百舌の叫ぶ夜』に続くシリーズの第二話。
-
-
『満潮』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『満潮』朝倉 かすみ 光文社文庫 2019年7月20日初版 わたし、ひとがわたしに
-
-
『ミュージック・ブレス・ユー!! 』(津村記久子)_書評という名の読書感想文
『ミュージック・ブレス・ユー!! 』津村 記久子 角川書店 2008年6月30日初版 オケタニ
-
-
『間宵の母』(歌野晶午)_書評という名の読書感想文
『間宵の母』歌野 晶午 双葉文庫 2022年9月11日第1刷発行 恐怖のあまり笑い
-
-
『農ガール、農ライフ』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文
『農ガール、農ライフ』垣谷 美雨 祥伝社文庫 2019年5月20日初版 大丈夫、ま
-
-
『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その1)
『後妻業』(その1) 黒川 博行 文芸春秋 2014年8月30日第一刷 とうとう、本当にとう